毒?なにそれこわいの?

『気が付きましたか? 私は光の神の神官シャイン。貴方はゴブリンに囚われていたのです』

 男性はゆっくりと周囲を見回し、ハッと気づいて自分の体を確かめる。

『…そうだ、私はゴブリンに捕まって…あれ!? 痛みが、あいつらに嬲られたはずなのに…』

 安心させるために、優しく語りかける。

『怪我は光の神が癒してくださいました。…まだ痛むところはありますか?』

 男性は感動したように身を震わせ、こちらに向き直る。

『あれほどの傷を…いえ、もう大丈夫です。光の神とあなたに感謝を。私はノイマン、旅商人です』

 

「あ! 龍治、怪我は治したけど毒とかは大丈夫なの? 【ヒーリングⅠ】って毒は治せないわよね」

 ゴブリンが卑怯なら、武器に毒とか塗ってても不思議ではない。

「ああ、それは大丈夫。このゲームのゴブリンは毒っていう物を理解できないから」

「へ?」

「ルールブックに書いてあるんだ。『毒の扱いは慎重に! 安易に使うと最終的にはプレイヤーとマスターの毒の応酬になるだろう。毒の使用は特別なシチュエーションの時のみにお勧めする。色々知って周囲に引かれたくないだろう?』って」

 作者になにがあったのか。

「だから【知力】が低い種族は毒を理解できない事にしたんだ。使うのは先天的に毒を持ってるモンスターか、暗殺者くらいかな? 一般では禁止されてるってことで」

「そっか、よく考えたら現実でも毒物扱うのって資格とか色々大変そうだもの。知識が中世レベルなら尚更ね」 

「一応オプションルールで有るけど、何十種類もある毒とその解毒剤の細かい管理したい?」

「うん、やめとく♪」

 私はゲームがしたいんであって、数字の管理をやりたいわけじゃない。

 

『ではノイマンさん、聞かせてくれませんか? 貴方が捕まった時の様子を』

『はい。昨日、夕暮れに街道沿いを歩いていたところ、近くの林から突然4匹のゴブリンが出てきて、私を取り囲んだのです』

 ふむふむ。

『ゴブリン達からしたら、早朝のパトロールという所でしょうか。運が悪かったですね』

『…はい。最近は特に被害も聞いてなかったので、大丈夫だろうと…知っていれば途中の村で一泊したのですが』

 

「てことは龍治、この人が最初の被害者ってことかしら?」

「あ~…そこはまだ内緒。シナリオ中だしね」

 それもそうか。

「ヒントを言うと、シャイン達はまだ具体的な被害は聞いてないってくらいかな? 目撃報告が街の領主に伝わって、触れが出たと」

 ほうほう、被害が出る前に手を打つなんて、良い領主っぽいわね。

 

『武器を突きつけられて、この遺跡まで引っ張ってこられました。…中に入ってからは暗くて何も見えず、荷物を取り上げられて壁に括りつけられ…そして!』

 恐慌しそうになる彼の前に掌をかざし、言葉を止める。

『そこまで。…よく話してくれました、貴方のここでの苦しみは終わったのです。どうぞ心を安らかに』

『は、はい。ありがとうございます…』

 

「特に新しい情報は無し、か。まあしょうがないわね」

 被害者の心を抉っちゃいけないわよね、人として。

「あ、一つだけあるかな。大きな声で指図するゴブリンが居たって、内容は分からないけど」

 む、話に聞いたホブゴブリンだろうか? …いやいや、決め付けるのはまだ早いか、声だけだしね。

 

『皆、後方はどうです? ゴブリン達の気配はありますか?』

 少し離れて【聞き耳】を立てていたディーンが答える。

『ありやせん、お嬢。静かなもんです』

 さて、どうするか。

『どうします? マスター。礼拝堂に突入するか、左の部屋を先に調べるか。…商人殿を先に帰すというのもありますが』

 怒りをにじませた戦士が、先に口を開く。

『突入するべきだ。邪悪な輩をこれ以上放置しては、さらなる犠牲者が出かねん』

 それに盗賊が異を唱える。

『先に左の部屋をしらべやしょう。ゴブ共が居たとしたら、挟み撃ちされる恐れがありやす』

 チラと商人に視線を向ける。

『私の事は気になさらず、…荷物は取り戻したいですが、命の方が大事です』

 皆の意見を聞き、一息吐いて決を下す。

『…先に部屋を調べましょう。恐らくまだ敵の方が数が多いはず、挟撃は避けたいです。いいですね、ローデリック?』

『…御意』

 少し不満げな戦士をなだめる。

『ローデリック、貴方の武勇は信じますが、背後を気にかけて戦力を回す余裕はないのです。辛抱してください』

『はっ』

 

 私はテーブルにパタッと突っ伏しつつぼやく。

「無理よねー、シャインとローデリックと…きっとディーンも前に出ないと手が足らないわよねー…そうやって一人になったカイヴァンの後ろからゴブリンが来たら…ああっ!? さっきの悪夢が!!」

「サクっと逝きそうだよね。あ、その場合もちろん手加減しないから」

「うん、分かってる♪ …ちくしょう」

 

『私』達は注意深く左の部屋に向かった。