ボケにはツッコミが必要

「へ~、そんなのあったんだ」

 という鏡子の関心声。…あまり関心はなさそうだが。

 翌日の学校での昼休み。紹介も兼ねて鏡子に昨日の顛末を話したところだ。

「まあ、よろしくね? 紫だから…「ゆかりん」でいい?」

「え? あ、はい!? えっと、どうぞご自由に…」

 驚きつつ答える紫。人付き合い慣れてなさそうねぇ…

「で、どうすんの? ゆかりんが参加する時はマキがマスターするって事でいいの?」

「そこなのよ。昨日寝る前ちょっと考えたんだけど、それだと鏡子が暇になるでしょ? それとも、もう一人キャラクター作る?」

 鏡子はちょっと考え、

「う~ん…特にいいかな? ていうか、頭の中でキャラがごっちゃになっちゃいそう」

 うん、気持ちはわかる。

「そもそもさ? ゆかりんはどんくらい来れるの? 今んとこあたしとマキはほぼ毎週ゲームしてるけど」

 それもあったわね。

「えっと、そこまでは…。月に1~2回くらいなら…」

 あらら…

「という訳で、こう決まったわ!」

「はぁ…」

 生返事する龍治。あんたも関係あるんだから、しっかり聞きなさいよ?

 ちなみに場所は私の部屋。平日なので鏡子も紫も居ない。

「全員揃う時は私がGMで、紫が来られない時はあんたがGM。ここまではOK?」

 コクリと頷く龍治。

「滅多にないだろうけど、紫が来られて鏡子が来れない時も私がGM」

 龍治が再び頷く。

「最後に、私か龍治が欠席ならそもそもゲームは不成立。以上」

「了解。でも、僕はそれでいいけど真輝ちゃんはいいの? プレイヤーやる頻度がかなり落ちると思うけど」

 ぐっ…そ、それは確かに。

 いや別にGMするのが嫌ってわけじゃないのよ? 準備は大変だけど楽しいことも多いし。

 けど、シャインという一人のキャラクター(とその他)を操って冒険するというのも、また格別というか…

「まあ、とりあえずこれでやってみようか。ゲームしてる内に、また変わるかもしれないし」

 頭を抱えて唸ってた私には、龍治の慰めが心地よかった。

「きょ、今日はよろしくお願いします!」

「「「よろしく~(パチパチパチ)」」」

 頑張って挨拶した紫を、私達が拍手で迎える。

 時は移って週末の私の部屋。全員揃ったのでGMは私だ。

 鏡子はどうするのかって? ちゃ~んと考えてあるわよ!

「で、何で鏡子ちゃんは【そっち】側なんでしょう?」

 マスタースクリーン越しに訪ねてくる龍治。あらあら、気が早いわね♪

「それはあたしもマスターだもん。こういうの、SMサブマスターって言うんだっけ?♪」

 私達の含み笑いに、対面の二人が不安げな顔を余儀なくされた。

『はあ…で、この黒ちっこいのが【若】のコレって訳ですかい?』

 ガグが品のない指使いと共に【俺】に聞いてくる。一々否定するのも面倒だな。

なりはこうだが、頭は貴様等とは比べ物にならんぞ。【鋭き牙】一族全員と知恵比べしても勝てるだろうよ』

『はあ!? 若、そりゃ言い過ぎってもんじゃ…』

『アンリ様、訂正を』

 そう言って黒妖精【リア】が一歩前に出て言う。

『訓練を終えたての私ごとき若輩者が、実戦経験の豊富なオークの皆様にかなうべくもありません。年月を重ねて円熟したその知識、ご指導ご鞭撻の程を宜しくお願いします』

 ぺこりと一礼して終わらせる。ガグは機嫌を良くし、

『お、おう。分かってるじゃねーか、何でも聞くといいぜ!』

 と言って執務室を出ていく。

 せいぜい五十年が寿命の【オーク】と、成人が百年の【黒妖精】では蓄積される知識は雲泥の差があるのだが…まあ本人が気付かなければいいか。

『相変わらず口は達者な様だな。【死霊術】も上達してくれてると嬉しいのだが』

 そう【俺】が促すと、小柄な黒妖精がにやりと笑った。

 

「「おお~~(パチパチ)」」

 鏡子と思わず拍手。いやいや、即興にしては大したものよ。

「僕はただ【ダークエルフ】の【ネクロマンサー】といったら頭もいいのかな? と思って言っただけだけど…」

 と頭を掻きつつ言い、視線を紫に向ける龍治。

「思い返したら恥ずかしいけど、なんか自然と話せたの…ロールプレイって楽しいのかも」

 恥ずかしげに言う紫。うんうん、楽しいわよね! ちょっと恥ずかしいけど…

「という訳で、紫のキャラクター【ダークエルフ】の【リア】を作りたいと思います」

 まだ種族と名前しか決まってなかったのよね。

「「わ~~(パチパチパチ)」」

 私の宣言に賛同する二人。…ん?

「なんで肝心の紫が乗り気じゃないのかしら?」

「わ、私なんかが【ダークエルフ】で本当にいいのかなって…」

 またか。

「じゃあ、ゆかりんは自分が何なら似合うって思うの?」

「え?【ゴブリン】とか【コボルド】とかが関の山かと…」

 鏡子の問いに申し訳なさそうに答える紫。謙虚そうに聞こえるけど、実はそうでもない。

「その辺りは本当に弱いから、止めておいた方が…」

 龍治のフォローが入る。あんた、この子の本性分かってないわね? 結構図々しいわよ?

「そう? じゃあ【コボルド】で…」

「【ダークエルフ】でお願いします!」

 フォローを遮った私の言葉を更に遮る紫。

 ほら見なさい。

「【筋力】…私、運動得意じゃないから3か4くらいで…」

「じゃあ3ね♪」

「9くらいはあると思います!」

 ………

「【知力】…特異な科目とか無いから10でしょうか…」

「【魔術師】の最低値の9にしとく?」

「実は体育以外自信あるので14でお願いします!」

 と言う様に「紫のセルフボケに私が容赦なく突っ込む」という形で事は進み…

「【魅力】(ごくり)…」

 紫も下手なボケは出来ないと悟ったのか、特に言葉は出さず私を上目づかいで見る。

「【死霊術師】が【魅力】高いなんて可笑しいわよね♪ じゃあ3か4で…」

「わーっ! わーっ!」

 先にボケてやったら必死で止めに来た紫。最初から素直になりなさいっての。

「龍っちは、ゆかりんの【魅力】どんくらいだと思う?」

「え? う~~ん、じゅうい…2?」

 お前もまたか。

「峯崎君!? そんな「11じゃ可哀想だから12」みたいに言うなんて!」

 ムカつくわよねぇ、うんうん。

 まあでも、そろそろ引導を渡してやろうかしら。

「どうする紫? 12でいい?」

 私の無言の意思を込めた問いに紫は、

「あう…じゅうさ、いえ14で!」

 うむ、素直でよろしい。

「ちなみに、皆さんのキャラの【魅力】は幾つなんです?」

「あたしは17♪」

「僕は16…あ、ほとんど職業と種族の修正でね?」

 すまなそうな龍治の言葉が終わると、視線が私に集まる。

「………19」

「ぶふっ!?」

 どうやらツボに来た紫が、お腹を抑えてうずくまり、改めて鏡子が笑い、龍治が乾いた苦笑いをする。

 ………

 ちくしょうめ――っ!!(総統風に)

名前:リア

種族:ダークエルフ

レベル:ネクロマンサ―2

筋力 : 9-1= 8(-1)

知力 :14+2=16(+3)

信仰心:16  =16(+3)

敏捷性: 8+2=10(±0)

耐久力:10-2= 8(-1)

魅力 :14+1=15(+2)