右の部屋のうめき声

 松明とランタンの明かりを頼りに、改めて部屋を見回す。

 そうすると、奥行きは見通せないが横幅は12m程で、真ん中を通路とするとそれを挟むように等間隔で柱が建っていることがわかる。

『やはり何かを祭っていたようですね。この造りは神殿と言っていいでしょう』

 『私』にとっては、ある意味見慣れている。予想通りなら、しばらく進めば礼拝堂があるだろう。

『御意。ゴブリンが巣くっているとしたら奥の礼拝堂でしょうか、…罰当たりな』

 憤る魔術師に声をかける。

『冷静さを失ってはいけませんよ、カイヴァン。ゴブリンが何処かの神に失礼なマネをしているというのであれば、私たちが正してあげれば良いのです』

『は、気を付けます』

 『私』は頷き、指示を出す。

『ではディーン、先行して偵察を。無理はしないでくださいね?』

『うっす。ランタンを借りますぜ』

 手にしたランタンの光を絞り、ディーンは足を忍ばせ闇に消えていく。

 

「ねぇ龍治、ランタンって使ったことある?」

「…無いね。まあ盗賊だから上手く使うんじゃないかな? 自分で使ったことないから、ちょっと想像しづらいけど」

「ガールスカウトにでも参加してれば教わったのかしら?」

「かもね。あ、ディーンがランタン持っていったけど、松明は誰が持ってるんだっけ?」

 あ、残ったシャイン達の光源か。う~ん…シャインとローデリックは武器と盾を持ってるからカイヴァンかな?

「カイヴァンでいい? 杖は片手で持って、魔法を使う時は松明を床に捨てるってことで。…火事になったりしないわよね?」

 ジェスチャーを交えて説明する。

「うん。床は石畳で可燃物は特にない。今の所はね?」

 む、状況描写はしっかり聞いておこう。知らぬ間に火事になってたりなんて、冗談じゃない。

 

 10分ほど経過しただろうか、ディーンが足音をたてずに戻ってきた。

『お嬢、10mほど先で左右に通路が。【聞き耳】をしたところ、右側からうめき声の様な音が聞こえやした。正面通路はまだ続いていやす』

『うめき声ですか? 誰か囚われているんでしょうか…』

 もしもそうだとするなら、助けねばなるまい。

 

「左側は宝部屋…というか物置部屋なのよね。盗賊のソロシナリオなら盗んで逃げればシナリオクリアーなんでしょうけど」

 宝を持ちすぎてゴブリンに捕まらなければね。シクシク…

「流石に4人パーティで、しかも光の神に仕える神官戦士がそれをやったらクリアーとは認められないなぁ…逆にペナルティ付けたくなりそう」

 それはそうだろう。よし、なら神官らしく行動しますか!

 

『右側の通路に行ってみましょう。もし人が囚われているのなら、早ければ助けられるかも知れません。ディーンは先行、次に私、カイヴァン、殿しんがりはローデリックに任せます』

 注意深く通路を進んでいくと、『私』にも聞こえる様になってきた。…間違いない、これは人が苦しむときに搾り出す声だ!

 

「部屋に入って見渡すと、どうやら縦横10m程の正方形の部屋のようだ。床には雑多な物が散らばっていて、ゴブリンの姿はない。しかし君達は安心できなかった。何故なら正面の奥の壁に、傷だらけの人間の男性が張り付けられているからだ! その男性は苦しそうなうめき声を上げ、今にも息絶えそうだ。どうする?」

 そんなこと、聞くまでもないでしょ!

「すぐに【ヒーリングⅠ】をかけ…」

 私の宣言を龍治が遮る。

「うん。でもシャインは【治癒呪文遠隔化】の技能を持っていないから、直接触れる必要があるよね? だから間に合うかどうか【敏捷性】の判定だね」

「びんしょうせい…?」

 初めて聞いた単語を喋る時のような発音が、私から漏れた。

「え? やり方言わなかったっけ。難易度+10を目標値にして、関連する職業レベルと能力値の修正値で判定…」

「やり方は知ってるわよ! 使う能力値の事を考えたくなかっただけ!」

「ああ…ま、まあそんなに難しい行為じゃないから、難易度は3ということで」

 3…。てことは10を足して13。私のレベルが1で【敏捷性】の修正値は±0だから…

「2d10して12以上で成功よね。ねえ、これって失敗したら…」

「聞きたい?」

 ぐっ…

「いいわよ! 成功すればいいんでしょ!? 神様、私の為じゃなくこの人の為に力をお貸しください! ていっ!(コロコロ)」

 サイコロの出目は5と8。神様グッジョブです! 

「ふぅ。なんとか間に合って…」

 一息つこうとした私を、そうはさせじと龍治が語る。

「シャインの治癒呪文の光がうめく男性の体を包む。しかし男性が負った傷は多く、そして深かった。彼を救うには強力な神の加護が必要だ! …という訳で、HPが何点回復したか判定して? あまり低いと助からないから」

 ぐぬぬ…龍治のくせに! だが優秀な神官であるシャインを甘く見てもらっては困る。

「ふふん。こんな事もあろうかと、シャインは【癒し】の技能を持ってるのよ!」

 

 『私』の治癒呪文の光が男性の体を包み込む。するとどうだろう、彼の体に無数に付いていた傷が、跡形もなく消えていく。

『すげぇ…これがお嬢の癒しかよ』

『さすが我が主。神に愛されている』

『通常の神官の倍…いやそれ以上かもしれん。末恐ろしいな』

『そういえば、倍ってどのくらいだ?』

『…あとで教えてやるから黙ってろ』

 

「1d8で8! それに1を足して9! さらに倍にして18点の回復よ! どう!? まだ足りない!?」

 どこぞの戦闘特化超人のように突きつける。

「えーと、この人の最大HPは5だから、1か2だったら失敗にしようと思ってたんだけど…【癒し】持ちのシャインじゃ失敗しようがなかったね」

 

 光が収まり、呼吸が安定したことを確認して、とりあえず男性を壁から開放する。壁を見ると、人を拘束するための器具がいくつも設置してある。この部屋は拷問部屋だったのだろうか。…神殿で拷問部屋? 一体どんな神を祭って…

『ここは…そしてあなた達は…』

 考えている間に彼の意識が戻ったようだ、まずは話を聞いてみよう。