左の部屋には何がある?

 雑多、という言葉がこれほど似合う部屋もないだろう。

 部屋の大きさは右の部屋と一緒。違うのは、正面奥に拷問器具ではなく古めかしい机と椅子、右の壁際には書棚があり、左側に寝台があること。元々は司祭の部屋だったと思われる。だが…

 

「元々は司祭の部屋だったであろうこの部屋は、今やゴブリン達の物置と化していた。人間から見ると、とても価値があるとは思えない木の枝、動物の骨、尖った石などが所狭しと散らばっている。君たちが『この中から目当ての物を探すのは骨が折れそうだ』と思いながら見渡すと、部屋の片隅に商人の物と思われる背負子と、ゴブリンから見ても別格の価値があったのだろうか、銅貨や銀貨などの貨幣が詰められた木箱が置いてある。見た目通りなら、かなりの枚数がありそうだ。どうする?」

「どうするって、ここで宝に飛び付くようじゃ冒険者失格でしょ? まずは敵が隠れていないか、そして罠が仕掛けられてないか確認ね」

 慌てるなんとかは貰いが少ない、ってね。

「了解。机や寝台、隠れられそうな大きさの物を注意深く調べたところ、ゴブリンはいなかった。だが、君たち4人がそうしている間に商人が『私の背負子! 良かった、無事だ!』と背負子にしがみついている。幸運なことに、背負子に罠はなかったようだ」

 う、うーん…まあ商人は冒険者じゃないしねぇ。

 

『…危険ですよノイマンさん。嬉しいのは分かりますが、私たちが調べてからにしてください』

『す、すみません。嬉しかったので、つい…』

 ディーンが苦笑しながらフォローする。

『まあまあ、お嬢。調べる手間が省けたと思いましょうや。…で、これが俺の目を眩ませたお宝ってやつですかね』

 苦々しく箱を見やり、溜息をつく。

『見たとこ銅貨と銀貨で合わせて2~3000枚ってとこっすかね、…はぁ、1人で運べるわけねーだろこんな数。何考えてんだ俺?』

 

「う~…もう言わないでって言ったのに」

「言ってるのは真輝ちゃんなんだけど…そうだ、1d100してみて?」

 1d100? ちょっと何言ってるか分からないんだけど…

「なにそれ、100面体のサイコロなんてあるの?」

「あるらしいよ? 叔父さんのサイコロ入れには入ってなかったけど」

「え、本当にあるの!?」

「うん。大きくて、値段が高くて、振ったらなかなか止まらなくて、止まっても出目が分からない。っていう」

「なんの意味があるのよ!?」

 昔の人の考えが分からない。

「それは分からないけど…ゲームでは10面体のサイコロを2個振って決めるんだ。片方を10の位、もう片方を1の位として読んで、00が出たら100と」

 ああ、なるほど。

「要は確率で何か決めたいのよね、いくつが出ればいいの?」

「10以下かな? まあ出たらラッキーってくらいで」

 ふぅん、じゃあ気軽に、えいっ(コロコロ)

「あ、0と5。だから5ね、出たわよ?」

「え、本当に!?」

 龍治が驚いてる。どうやら出るとは思ってなかったらしい。そりゃ10%じゃねぇ…

「そっかぁ…どうしようかな。武器や防具じゃこの箱に入ってるのは不自然だから、小さい物かな?」

「何の話なの?」

 龍治がルールブックを調べながら答える。

「宝の中に魔法のアイテムが有るかどうかって言う判定なんだけど、出るとは思わなかった。何が適当だろ?」

 おお、魔法のアイテム!? それなら何でもウェルカムよ!

「なになに!? 小さいってことは指輪? 宝石? 高く売れそう!?」

 龍治が溜息をつきつつ答える。

「はぁ…指輪が一番自然かな? じゃあ真輝ちゃん、もう一回1d100して?」

「え、100種類もあるの!? 多過ぎじゃない?」

「違う違う、貴重さによって確率に差があるんだよ。ありふれた物なら5%くらいで、滅多にないものは1%だね」

 そっか、確かに弱いのと強いので同じ確率ってのもおかしいわよね。…ん? ちょっと待って、そうなると…

「…龍治? ていうことは、欲しい強力な魔法の指輪があったとして、それが出るには

 1:魔法のアイテムが出る確率=10%

 2:それが指輪の確率=?%

 3:強い指輪が出る確率=1%

 の壁を越えなくちゃいけないのよね…?」

 龍治が指折り計算して答える。

「…約2万分の1ってところだね。ソシャゲガチャもびっくりだ」

「できるか――っ!!」

 激昂して叫ぶ私。1回1時間でシナリオこなしたとして2万時間、24で割って約830日、丸2年と4ヶ月弱をゲームだけやり込んで出るかどうかという代物だ。これが叫ばずにいられようか。

「落ち着いて真輝ちゃん! ゴブリンだから確率低いだけで、ドラゴンとかなら倍くらいあるから!」

「それでも1万時間かかるじゃない! 龍治! あんた私に1年2ヶ月かけてドラゴン1万匹殺せっていうの!?」

「1回に10匹くらい殺れば…」

「勝てるか――っ!!」

「マ~~キ~~~? 何度言ったら分かるの!!」

 お母さん三度登場、でも話せばきっと分かってくれる…!

「龍治が『指輪が欲しければドラゴンを1万匹殺せ』って言うから…」

「…龍くん、女の子を振る時はもっとスパっと言ってあげた方が良いわよ?」

「え!? 僕悪い男ですか!?」

 経緯を聞いたお母さんが、頬に手を当てつつ溜息をつく。

「はぁ…あのね二人とも、この宝物決定表はランダムに宝を決めたい時に使うもので、全ての宝をこれで決めなくちゃいけないわけじゃないのよ?」

「そうなの!?」

 てっきり欲しい物が出るまでサイコロを振らなくちゃいけないと思ってた。

「ゲーム機じゃないんだから、もっと柔軟に考えなさい? あと、次からは騒ぐ前にお母さんに聞くこと。お父さんほどじゃないけど、このゲームのことならよく知ってるから」

「はーい」 

 お母さんが階段を降りていく音が聞こえる。そっか、人同士でやってるんだから、ソシャゲと違ってある程度好きにやっていいんだ。うん、ちょっとスッキリしたかも。

「じゃあ続けましょうか! …何してたんだっけ?」

 龍治が疲れた表情で答える。

「…どんな指輪が出たか決めるところ。とりあえず1d100をどうぞ」

 そう、そうだった! 龍治から少し目をそらしつつ、黒と白の10面体サイコロを手に取る。

「じゃ、じゃあ黒が10の位で、白が1の位で振るわね? ていっ!(コロコロ)」

 そうすると、黒が3で白は0の目で止まる。30かぁ…どっちつかずの数字ね。これは期待できないかな?

「30ね…30は、と……え? うぇぇっ!?」

「…何その反応。実は呪われてるとか?」

 我ながら縁起でもない。というか、1レベルのキャラが呪われたら、借金でもしないと解呪不可能じゃない? それは勘弁願いたい。

「いや、そういうわけじゃ…あ、言っちゃいけないのか。でもこれは…この設定だと、こうなるのかな?」

 龍治が頭を抱えつつルールブックを読みつつ独り言を言ってる。器用なのか不器用なのか。

「結局なんなの? あ、考えがまとまらないなら休憩にする?」

 ちょっと助け舟を出してみる。何をするにも時間ってものが必要よね、…お父さんもいつも時間が欲しいって言ってるし。うん、頑張ってお父さん。…倒れないくらいで。

「ん、大丈夫。とりあえず決まったから。じゃあ続けるね?」

 

 念の為、木箱の中をざっと調べていたディーンが、何かに気づいた様に目を見張る。

『…指輪か。あとは銀貨と銅貨だけだな、つっても半分以上銅貨かよ…』

 そして指輪を手に取り、上にかざして角度を変えつつ見回す。

『何てことはねーな、ただの安物だ。カイ、あんたにはどう見える?』

 そう言ってカイヴァンに放り投げる。

『ふむ、確かに何も……ん? うっすらと…これは紋章か? …これではよく分からんな』

 紋章? それなら…

『カイヴァン、私にも見せて下さいませんか? それが神に関するものなら、見当がつくかもしれません』

『はっ。特に魔力は感じませんが、お気を付け下さい』

 そう言って、うやうやしく『私』に指輪を差し出す。

『はい。では…』

 と言って指輪を手に取った瞬間、部屋が白い輝きに埋めつくされた。