「マキ、じゃーね~♪」
「うん、また明日~」
学校の帰り道、いつもの分かれ道で鏡子と別れる。
家から学校へはそこそこの距離があるので、普通なら自転車で通学するのだが、私は歩いて通っている。
運動部で朝練があるわけでなし、健康の為にも良いわよね。
通学途中に母校の中学校があるので、油断してると中学生に間違われるけどね!
ま、まあそれ以外に特に問題はなく? いつもの下校だった。
うん、いつもの。
………
(テクテクテク…)
(テクテクテク…)
ピタッ。
ピタッ。
……
(テクテク…)
(テクテク…)
ピタッ。
ピタッ。
…
(一歩踏み出すと見せかけて戻す!)
(テク…)
「あ…」
そしてグルッと振り返る!
そこには驚愕に目を見開いた、私と同じ制服姿の女の子が居て、一言恨めしそうに呟いた。
「ずるい……」
私が悪いの!?
・
・
・
「え~と、浅田さん? それで私に何の用があったの?」
テーブル越しに問いかける。
場面変わって私の部屋。話し辛そうに俯いてる彼女と、対面している私。そして隣に龍治。
「(僕は何でここに居るんでしょうか?)」
「(いいじゃない! 普段話してない人が急に近づいてきたんだから、襲われるかもしれないでしょ!? あんた人並み以上に体格良いんだから盾になりなさいよ!)」
「(そのために育ったんじゃないんだけど…)」
小声でやりあう私と龍治。ちなみに龍治は170cm超えている。少し分けなさいっての…
「あの…襲ったりしませんよぅ」
あら? しっかり聞こえてたみたい。
・
・
・
彼女の名前は浅田 紫。
肩くらいまでの髪の長さの所謂ボブカットで、掛けている眼鏡が雰囲気と相まって大人しさを際立たせている。
パッと見は文学少女と言う所かしら? 運動してる所は想像しにくそう。
身長は普通で、胸も普通。
「(普通?)」
訂正、胸は普通+…って何で龍治が突っ込むのよ!?
「あ、あの!」
再びやりあおうとしていた私と龍治(ガード体勢)を遮って彼女が声を出す。
「休み時間に加々美さんと御手洗さんの声が聞こえて…ドラゴン・ファンタジーって言ってたから…」
そこまで言って口を紡ぐ。なるほど、そっち(こっち?)の話だったか。
「ああ、一緒にゲームしたいって事? それならその時言ってくれれば良かったのに」
鏡子も居れば、色々話は弾んだだろう。
「そ、そんな…私なんかが一緒にゲームするなんて、お、烏滸がましい?」
どういう反応!?
「え、えーと…浅田さん?」
「(真輝ちゃん、烏滸がましいって言うのは…)」
「(だから意味は知ってるわよ!)」
龍治の余計なフォローを遮って彼女に向き直る。
「あの、何で一緒にゲームをするのに、そういう気づかいとか要るのかしら? 私たち友達…はともかく、クラスメイトよね?」
少し言葉を選んで言う。なんか嫌な予感がしたから…
「と、友達…私に!?」
選んだクラスメイトと言う単語をすっ飛ばしたわね、嫌な予感はこれか…
「なんか楽しくなりそうだね」
龍治、あんた他人事だと思って完全に切り捨ててるわね? 後で覚えときなさいよ…
・
・
・
「私ね【リッチ】になりたいの」
リッチ…お金持ちってこと?
まずはキャラクターを作ってみよう、という事で本人の希望を聞いた時に出た第一声がこれだった。
まあゲームでわざわざ貧乏生活したくないものね。途中参加だし、多少は色を付けてもいいかな?
「そうねぇ、龍治(GM)次第だけど多少は増やしても良いんじゃない? で、何が欲しいの?」
私がそう言うと、彼女は面食らったように、
「え、ちが…そうじゃなくて…」
「真輝ちゃん、多分これの事じゃないかな」
そういって龍治が見せてきたのは上級ルールのモンスター一覧。
開いたページには、おどろおどろしい、この世全ての生き物の敵と言わんばかりの【不死者】のイラストが載っていた。
「………」
私が絶句していると、彼女は「我が意を得た」と言わんばかりに目を輝かせ、
「そう! これ! 世のため人のため真面目に修行してきた人が、人類に絶望して全てを投げ捨てたこの姿! 正に私の理想!」
絶句しながらテーブルに突っ伏した私を誰か助けて?
「【不死者】の頂点だね。【魔術師】の専門職である【死霊術師】から初めて第六位階の呪文…11レベルに到達する必要があって、さらに自分の魂を封じる【契約の箱】を作るために金貨12万枚…12億円必要になるけど、いい?」
淡々と説明する龍治と、説明を聞いて愕然とする浅田さん。
ていうかこのゲーム【リッチ】になる方法がちゃんと確立されてるのね。どんだけ闇が深いのよ…
愕然としていた彼女は、ぎこちなくこちらに顔を向け、
「加々美さん…お金貸して?」
「うん、絶対にイヤ♪」
こんなに気持ち良く頼み事を断れたのは、初めてかもしれない。