【杖】だと思っていた。
【魔術師】の象徴である【杖】。だが、大きく三種類に分けられる。
単一の呪文を複数回使える【棒状】
複数の呪文が込められた【杖】
どちらも便利で高価だが、無二の物ではない。ルシア師くらいの実力があれば、単純な物なら作れよう。
見分けるのは長さだ。
肘から手の先くらいの長さの【棒状】。
大抵の人の身長よりも長い【杖】。
だからマナ姫が持つ、彼女の身長ほどの棒は【杖】だと勝手に思い込んでいた。
おかしいでしょ。だって彼女は人間の半分ほどの身長しかない【ハーフリング】なのだから!
【棒状】より長く【杖】より短い。じゃあこれは?
これこそが神から送られた【錫杖】、それも王権を意味する【王錫】である。
現存するのは【人間】【エルフ】【ドワーフ】【ハーフリング】の王家に各一本。
【人間】に与えられた【統治】
【エルフ】に与えられた【支配】
【ドワーフ】に与えられた【勝利】
そして【ハーフリング】に与えられたのが…
「真奈ちゃん、どれが良い?」
そういってプレイヤーズガイドブックのアイテム一覧のページにある武器のイラストを見せる。すると、
「ふにゅ?」
と言って真奈ちゃんは首を傾げる。うーん、これじゃあイメージ湧かないか…
「マキ、それよりこっちが良いんじゃない?」
鏡子はそう言って立ち上がり、私の本棚から一冊のアニメ雑誌を取り出す。ああ、そういえばこの間珍しく買ったわね。
ページを捲り真奈ちゃんに見せると、
「これ!」
真奈ちゃんの元気な声が響いた。
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戦士の…いや、その場にいる全員の目が釘付けとなる。
マナ姫の持つ【王錫】…【天罰】が輝きと共に形を変え、ある武器の姿をとる。
それを片手に持ち、もう片方の手を添えると光が収束し、一本の矢を形作る。
それを番え、弓を引き絞るマナ姫の姿は、断罪の天使そのものであった。
「なんか凄そうね…龍治、これ具体的にどのくらい強いの?」
「えーと+5の【ショートボウ】に、これまた+5の【アロー】だから命中判定とダメージに+10になるね」
色々おかしい。
「ということは…ほぼ確実に当たるとして、ダメージが…11~16!? もうゲームちがくない?」
鏡子が驚く。まあ絶対に当たる【ランスチャージ】みたいなものだから…死刑宣告と言っていいわね。
「うーん…なんかもう可哀想な気もしてきたけど、仕方ないわね。じゃあ真奈ちゃん、はい!」
と言ってサイコロを渡そうとすると、真奈ちゃんはこっちを見上げて聞いてきた。
「…こえって、いちゃい?」
………ああ。
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轟音と共に俺の顔のすぐ脇を「何か」が通り過ぎて行った。
視認出来た訳ではないが、分かる。分かってしまう。
少しでも動いてたら死んでいた、という事が。
その衝撃と事実、そして目の前にいる神々しい輝きを放つ【ハーフリング】女性の姿が、俺の中にあった詰まらない些事を全て吹き飛ばし、跪かせた。
『降伏します。そして、許されるなら貴女に絶対の忠誠を捧げましょう…我が主よ』
続いて俺の口から出た言葉は、いつか夢見た騎士のようだった。
「わ~~(パチパチパチパチ)♪」
過程と結果に、私と鏡子が思わず拍手する。
よく分からなくて私と鏡子をキョロキョロ見上げる真奈ちゃん。うん、教えてあげましょうか!
「あのね? 悪い子が「ごめんなさい、もうしません」って言ってるの♪」
「それにね? 「もう悪い子やめるから、お友達になって?」って真奈ちゃんに頼んでるんだよ。どうしよっか?」
私たちの言葉に、真奈ちゃんは顔を輝かせて、
「いいよ―!」
と答える。これで一件落着ね!
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『王女マナの名に於いて宣言します。決着は付きました、双方剣を納めなさい!』
先程の轟音の後、山賊頭…いえ、一人の騎士を伴いバルコニーから宣言したマナ姫の言葉に、砦の内外から視線が集まる。
一瞬の間の後、砦の中からはガシャンという武器を落とす音と落胆する声が、砦の外からは歓声が沸き起こる。
『開門し、投降せよ! また、これ以降双方傷つけ合う事を一切禁止とする。破った者には極刑も辞さない、厳守せよ!』
続く領主の声が全体を引き締める。
かくして、一連の騒動は幕を閉じた。