ミーちゃんも凄い

 試みる事数分、カチリという音が通路に静かに響く。

『…終わりました』

 やはり静かに宣言し、隊列の後ろに戻っていくハーフリング女性。

『すげえな…うちのギルドの師匠レベルか?』

 ディーンの漏らした言葉の方が、余程大きく聞こえた。

 

「ミーちゃんはね? おとなちいけど、おりがみとおえかきとってもじょうずなの!」

 という真奈ちゃんの言葉から、

「こんなキャラにしてみました」

 といって龍治が出したキャラクターシートがこちら。

名前:ミーちゃん?

種族:ハーフリング

レベル:シーフ3

筋力 : 8(-1)

知力 :12(+1)

信仰心:12(+1)

敏捷性:21(+5)

耐久力:10(±0)

魅力 :14(+2)

 【敏捷性】21って、あんた…

「うわ~…マ、じゃなくてシャインの2倍以上? お米粒に字とか書けそうだね」

 鏡子うっさい。

「で、真輝ちゃんは気付かず食べると。ありそうだね♪」

 龍治はやかましい。ていうか、

「それじゃただのドジっ子でしょうが! あんた達私を何だと思ってんの!?」

「まきちゃん、いっしょにおえかきする?」

 激高する私を慰めてくれるのは真奈ちゃんだけだった。くっ、血の繋がりって大切なのね。

(どうすっかな、こりゃ…)

 西の王都から流れてきた俺達傭兵団…いや、もう山賊か。

 つってもまだ山賊としての「仕事」なんかろくにしてねーんだが。先日見つけた身なりの良さそうな馬車は、変な女二人組に邪魔されたっつってたし…

 まあ、どのみち年貢の納め時か。 

 隠れ家であるこの古い砦も見つけられ、領主の軍およそ100人と対峙している。

 人数では負けていないが、籠城したところで食料が続かない。一週間も持たないだろう。

 降伏すれば命は助ける、なんて言ってるが正直怪しいもんだ。死ぬまで強制労働ってオチが見えらぁ。

 いっそこっちから打って出て、華々しく散ってやろうか。【剣を極めし者】相手に一騎打ち出来たなら、あの世への良い土産が…

 埒もないことを考えながら外を眺めていたその時、後ろの城主の座から「バンッ」という何かを跳ね上げる音が聞こえた。 

 

「君達は螺旋階段を一気に駆け上がり、入り口を塞いでいた戸板を跳ね上げた。出てみると、そこは城主の座の後ろ側だったようだ。バルコニーには君達を見て驚いた顔をしている男が居る。佇まいから見て、どうやら彼が山賊の頭のようだ。彼は一息つくと、騒ぐでもなく腰から剣を抜き、構える。どうやら覚悟を決めたようだ」

 ほぅ、なかなか潔いではないか。

「聞くだけならいいけど、実際地下1階から3階まで駆け上がるってきつそうだよね? 足振るえちゃいそう。しかも鎧着てるんでしょ?」

 鏡子が現実に引き戻す。そ、そういうことは考えない!

「かしら? おもちたべるの?」

 真奈ちゃんが違う現実を引っ張り出す。ああ、かしわ餅って美味しいわよね?

「おもちは良いやつ?だけど、こっちは悪いやつね。敵のボスが出たから、皆でやっつけようね?」

 そう言うと、真奈ちゃんは目を輝かせて、

「しゅてっきつかうー!」 

 とステッキをかざした。そういえば、龍治はこれをどう扱うつもりなんだろ?

 ちょっと首を傾げて龍治を見ると、

「そのステッキは、ゲーム的にはこれにしようかと」

 そう言って龍治は黒い本・・・を捲り始めた…

 地下での【不死者】達の掃討に寄る疲れの見える『私』達と、覚悟を決めた山賊頭…いや、戦士。

 たった一人の相手だが、余裕という雰囲気ではない。むしろ展開次第では、こちらに犠牲者が出かねない。

 最初の一歩が踏み出せない『私』達の中で、唯一人、悠然と前に出たのは…

『降伏、していただけませんか?』

 強い輝きを放つ杖を持った、マナ姫であった。