【衛視】という職業がある事は聞いていた。
広義の意味では【戦士】の一種であり、武器を持ち戦う者の事だが、その戦い方は【戦士】と大きく異なる。
【戦士】が金属鎧と盾で敵の攻撃を受け止め、または弾き返すのに対し【衛士】は革鎧とその身のこなしで敵の攻撃を捌き、両の手に持った武器で敵を突き刺すのだ。
いま「両の手」と言ったが、それは【大剣】や【斧槍】などの大型武器という意味ではない。
【衛視】という職業に要求されるのは、あらゆる障害から護衛対象を守りきることである。
それゆえ「武器が大きくて狭い所じゃ戦えない」とか「盾に隠れてたら敵が何をしてるか見えなかった」とか「利き手じゃないと満足に武器を使えない」等の言い訳を【衛視】は許されない。
結果、両手それぞれに武器を持つ【二刀流】というスタイルに落ち着く。
…そう、今『私』の目の前で行われた業の様に。
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『良い剣ですね、おかげで一太刀で済みました』
そう言いつつ、恭しく『私』に銀の短剣を差し出すマナ姫お付きのハーフリング男性。
呆然として言葉が出ない。
【収奪者】を屠った手並みも、残りの【不死者】達を掃討する速さも、終えた後の呼吸が乱れていないのも、何もかもが人間離れしている。
幾ら姫付きのエリート【衛士】でも、ここまでのものだろうか?
感謝、称賛、疑問、恐怖等の様々な感情が『私』の中に溢れる中、背後からカイヴァンの呻きにも似た声が聞こえた。
『…【忍者】?』
目の前の男性が、感心したような表情をした。
「…ずいぶん奮発したわね、龍治」
「どうせなら、とことんやっちゃおうかと…」
私の呆れた声に、少し苦り気味に答える龍治。
「そんなに凄いの?」
興味深く聞く鏡子。う~ん、何と言ったらいいか…
「私はチラッと見ただけだけどね? 何というか…アメリカ人の夢が詰まってるというか…」
言いつつ龍治に視線を送る。すると龍治は心得たと言う様に頷き、
「こんな感じのクラスだね。正直、公式が厨二病というか…」
【忍者】概要
・必要能力値:全て14以上
・HP:レベル毎に1d10+【耐久力】修正値
・攻撃力:戦士と同等
・盗賊技能:盗賊と同等
・刀、手裏剣装備可能
・軽装備時基本AC+2(偶数クラスレベル毎に更に+1、最大は20レベルの+12)
・攻撃時、命中判定の2d10で20が出た場合、敵を即死させる
・基本経験点:4000
「全部14以上!? そんな人現実にいるの?」
鏡子が驚く。まあ、居ないとは言えない…のかな?
「えーと、3d6で14だと…8分の3を6回出せばいいんだから…」
龍治が計算を始める。理系ってこういう時便利よね?
「約360分の1かな? 学校に一人居るか居ないかって所だね」
「は~…うちの学校には居なさそうだね」
のんびり公立高校には縁のない話だったようだ。
「なんなのー?」
真奈ちゃんの不思議声。
「いっちばん怖いお化けをマー君?がやっつけてくれたの。ありがとね~♪」
「にへ~♪」
鏡子がまとめてくれた言葉に真奈ちゃんがふやける。よかったよかった♪
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『…いえ、今はそのままお使いください。『私』は殆ど使っていませんでしたし、まだ必要かもしれませんから』
と言って返却を断り、逆に腰の鞘を外して差し出す。
『かたじけない。では、しばしの間お借りします』
そう答え、装備を整えるハーフリング男性。
『マスター、先程は申し訳ありませんでした。ですが、いかがいたしましょう? この騒ぎでは流石に…』
カイヴァンが謝罪と共に促してくる。う~ん、どうしたものか…
『お嬢、大丈夫そうですぜ』
考えていると、ディーンが近づきつつ声をかけてきた。
『奥の上り階段からちっと聞き耳してみやしたが「おい、お前調べてこいよ」「やだよ、地下墓地なんだろ?」みたいな会話が聞こえてきやした。大方、上側からも塞いでんじゃないですかね』
不幸中の幸いというところか。
『では、分かれ道まで戻りましょう』
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『すんません、お嬢。おれの手には負えねーっす』
と、ディーンがお手上げだというジェスチャーをする。むぅ、困ったわね…
『くっ…第二位階に手が届いていれば【解錠】の呪文があるのだが』
カイヴァンが悔しそうに呻く。だが無いもの強請りしてもしょうがない。
分かれ道まで戻りもう一方に進んだところ、道は左に曲がり結局砦の方向に進んでいた。やはりこっちが本来の脱出口なのだろう。
先程との違いは、扉がこちら側から打ち付けられてるのではなく、砦側からカギが掛けられてるという所だ。
別に閂で閉じられてる訳ではなく、こちら側から鍵開けを試みる事は出来るのだが、ディーンの腕では無理だった。
『主よ、またこじ開けますか?』
ローデリックが手斧を構えて言う。
『これ以上時間をかけたくないし、騒音も出したくないのですが…仕方ありませんね』
第二位階である【静寂】の呪文は後一回。出来たら温存したい。
『私』が溜息交じりに応えると、
『あの…私が試みてもよろしいですか?』
マナ姫お付きのハーフリング女性が、申し訳なさそうに話しかけてきた。