いざ突入!

「マー君とミーちゃん? それってお友達の名前?」

「あい!」

 元気よく答える真奈ちゃん。

「ミーちゃんって言うと女の子だよね? じゃあマー君は男の子?」

 鏡子の問いにこくんと頷く真奈ちゃん。ほほぅ、その年で男の子とな?

「どんなお友達なの?」

「えっと…いっつもいっしょにあそんで、おべんとうたべて…おひるねして、ばいばいするの!」

 なるほど、仲が良いのは分かった。

「マナちゃんはマー君のこと好きなの♪?」

 鏡子が楽しそうに聞く。あんたねぇ…5才手前でそんな関係なわけ…

「…ちょっとしゅき」

 両手で頭を抱えて恥ずかしそうに言う真奈ちゃん。何この可愛い生き物。

「お~~♪ 聞いた二人とも? このままじゃ先越されちゃうよ♪」

「どこの先よ!?」

「色々な意味で絡みづらいなぁ…」

 

『では『私』達が先行しますので、姫様達は後に続いてください』

 突入前に隊列を組みつつ、姫達に伝える。幾らなんでも先に行かせはできない。

『承知しました。ですが助力が必要な時はいつでも仰ってください』

 【賢者の衣】に加え、魔法がかかっているであろう杖を持ったマナ姫が答える。

 …と、言われてもねぇ。

 

「ディーンとローデリックが先頭、シャインとカイヴァンが2列目で、マナ姫とアリシアが3列目、最後尾に…えーと、マー君とミーちゃん?でいいかしら?」

「了解。じゃあ明かりはディーンとカイヴァンと…ミーちゃん?がそれぞれ持つ、でいいかな」

 うんうん、明かりは幾つかあった方が良いわよね。

「なにしてるのー?」

 あら、名前が出たから不思議に思ったかしら?

「んっふっふ、実はこれから皆でお化け屋敷に入るのだ~~」

 おどろおどろしく言う鏡子。こらこら、脅かすんじゃないわよ。

「おばけ!? や――!!」

 と叫んで私に抱き着く真奈ちゃん。まったく鏡子は…

「大丈夫よ~真奈ちゃん。悪い子にメッてするだけで、お化けなんて出ないから」

「えっ?」

「「えっ?」」

 龍治の声と、続いて重なる私と鏡子の声。ちょっと…なんで龍治が意外そうにするのよ!?

『では、殿はお任せください』

 と言ってうやうやしく最後尾に付くハーフリング男性。きちんと紹介されたんだが、どうにも印象が薄い。

 もう一人の女官と共に、腕に覚えはあるようだが、マナ姫の警護以外に関心がないのか、ほとんど会話がない。

 装備をチラッと見たところ、男性は戦士で女性は盗賊と思われるのだが、確証はない。

 だって革鎧と短剣とダガーって装備で、それ以上想像できる?

 人間の半分ほどの身長で、筋力は劣るが素早さの高いハーフリングが革鎧なのは当然だろうし。

 人間の長剣はハーフリングにとって大剣になってしまうから、戦士でも短剣を使うのは、これも当然。

 ダガーは便利だから、これも持ってて当然。

 実は魔術師だったり神官だったりしても、全然不思議ではない。

 まあ神官だったら聖なる印ホーリーシンボルを持ってるだろうけれど、警護の為に隠してると言われれば、文句のつけようもない。

『お嬢、しばらく行くと道が二手に分かれてやす。直進と右っすね』

 ディーンの報告で現に戻る。味方の事で悩んでる場合じゃないわね、集中集中!

『分かれ道があるとは聞いていませんね。どう思います、カイヴァン?』

『はっ、方角では直進すれば砦のはずです。脱出先が2か所あるという事ではないでしょうか』

 なるほど。確かにいざ脱出となった時に、行先が1か所のみというのは不安かしらね。

『あり得ますね。時間も惜しいですし直進しましょう。念の為、殿のお二人は十分注意してください』

 『私』の言葉にそれぞれ頷く二人。

 よし、何事もなく砦に侵入できそうね。

 

「ずいぶん単純だね、メインは砦に入ってからかな?」

 鏡子が拍子抜けしたように言う。

「そうかもね。でも領主が軍隊出してるから、砦の中にもそんなに居ないんじゃないかしら? 楽でいいじゃない」

 そう言いつつ、ふと龍治の方を見る。

 だが、龍治の表情はマスタースクリーンに隠れて見えなかった。

 しばらく直進すると扉が見えてきた。木製の扉だが、何枚もの戸板が厳重に打ち付けられて、開かない様にされている。

『どうやらこの先ですね。と言っても、この状況では盗賊の出番では無さそうですが』

 といって『私』は戦士を見やる。すると戦士は肩をすくめ、

『承知。しかしこの大剣を敵に振れるのはいつの日やら…』

 と、ぼやきつつ手斧を取り出す。いずれ来ますよ。

『ちょっと待って、流石にここまで砦に近づいて大きな音出すのは不味いんじゃないかな?』

 アリシアが止める。ふむ、確かに。

『そうですね。それは『私』に任せてください。本来の使い方ではありませんが…』

 言いつつ投石紐用の石を一つ取り出し、『私』はある呪文を唱える。

『光の神よ、一時この場に静寂をもたらしたまえ。【サイレンス】!』

 直後、世界が静寂に包まれる。互いの息遣いどころか、自分の心音すら聞こえない。

 石を扉のそばに置き、ジェスチャーでローデリックに扉の破壊を頼み、他の皆と共に念の為呪文の範囲から離れる。

『第二位階の神官呪文【サイレンス】で御座いますね?』

 マナ姫の言葉に『私』は笑顔で答える。

『はい。以前の冒険で闇の呪文を使うゴブリンに苦戦しましたので、先日第二位階に到達した折、光の神に願ったのです』

 言葉と共に、満足感が胸の内に広がる。

 神官として成長し、皆の役に立てたのだ。この気持ちを忘れないようにしたい。

 だが、マナ姫の顔は晴れない。どうしたのだろう? まさか嫉妬という事はあるまい…

 

「いまなにしてるの―?」

 膝の上の真奈ちゃんが聞いてくる。う~ん、何と言ったらいいかしら?

「そうねぇ…迷路の出口から入ったのに、ドアが閉まってたから、もういいやってドア壊しちゃってるの。真奈ちゃんはドア壊しちゃだめよ―?」

 うん、我ながら良い例え! と思ってたら、真奈ちゃんは不思議そうな顔で…

「なんででぐちからはいったのに、はいれないの?」

 ………

「「あ!?」」

 私と鏡子の気付きの声を、龍治の笑い声がかき消した。