【魔法】には大きく分けて2系統ある。
【魔術師呪文】と【神官呪文】だ。
前者は人並み外れた【知力】が必要で、後者は神の声を直接聞けるほどの【信仰心】を要求される。
それらを操る【魔術師】と【神官】、成ろうと思っても成れるものではないし、成ったところで大成するためには想像を絶する修行が待ち受ける。
片方だけでも、人の身には余る。
だというのに、極稀にその二つを同時に修めようとする者が現れる。
その者は聖別された特殊な衣を身に纏い、この世の全てを解き明かそうと邁進するのである。
…その話を聞いた時【私】は我が師達に問いかけた。
“それは、どのような衣なのか?”
我が師達は異口同音にこう答えた。
“見れば分かる”
ああ、確かにその通りだ。こんな物、他に例えようがない。
知性を司る色である、青を基調とした衣。
だが時折虹色に煌めくのは、真の銀である【ミスリル】で織られているからだろう。
それが示すのは正しく叡智の光。
魔術師であり、叡智の神の神官でもある者。
【賢者の衣】
【賢者】の証しである。
「「おお~~!」」(パチパチパチ)
語り終えた龍治と、賞賛する私と鏡子。そしてよく分からなくてキョロキョロしてる真奈ちゃん。
じゃあ、詳しく教えてあげましょうか♪
「あのね、私達が助けた馬車に真奈ちゃんが乗ってたの。綺麗なお洋服着たお姫様だって♪」
「ほんと!?」
「うんうん♪ しかもただの魔法使いじゃなくって、お医者さんでもあるんだって、凄いね~♪」
「ふぁ~」
私と鏡子の説明に喜んだりビックリしたりで忙しい真奈ちゃん。ふふっ可愛いわね~♪
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『…其方はわざと面倒事を持ち込んでいるのではあるまいな?』
人聞きが悪すぎる。ていうかハーフリングのお姫様御一行を助けたのよ? むしろ賞賛するべきでしょう!
そうは思っても決して表には出さない。うん【私】成長してる。
所変わって領主の執務室。居るのは領主と幹部と【私】とアリシア、そしてハーフリングが3人。
本来なら、人間に友好的な種族であるハーフリングのお姫様なんて、街を挙げて歓待するところなんだけど…
「お忍びとはいえ、王族が人間の領土で山賊に襲われるなんて外交問題に発展しないかな…?」
龍治がポロっと言った言葉に、私と鏡子の顔色が変わった。
…高度に政治的な判断から、この件は極秘という扱いになった。
領主配下の衛兵隊長が、耳と目を塞いで『私は何も見てません聞いてません…』と繰り返して呟いてるのは、ある意味見ものだったわね…(現実逃避)
『それでは【マナ】殿下、此度はどういった目的で来訪されたのでしょう』
領主ログナーが改めて問いかける。まあ、まずはそこからよね。
「ふぇ?」
問われて首を傾げる真奈ちゃん。そりゃそうよね…
「えーとね? 真奈ちゃんは今日家に何しに来たのかって」
優しく言い換える。すると元気よく、
「あそびにきたの!」
と答える真奈ちゃん。うんうん、そりゃそうだ。
『ここ【イースト・エンド】には【全てを知る者】として名高い大魔道士のルシア殿が居られると聞き、先日王都にて【賢者】の称号を授かった私としては、ぜひ一度魔術について談義を交わしたく思いまして』
と言って領主の脇に立つルシアに目をやるマナ姫。なるほど、魔術師で更に叡智の神の神官としてなら当然の…
『更に、ここには【真紅の竜王】に認められた巫女も居られるとか? 北で【魔王】が活動を始めたという事も含めまして、ぜひ一度お会いしたいと』
【私】もかああああっ!?
表には出さず、内心叫び倒す【私】、ちゃんと隠せてるかしら…?
『なるほど、逗留を認めましょう。いや~そう言う事なら話は早い、そこに居るのがその【竜の巫女】です。彼女は腕利きの冒険者でもありますので、案内にも最適でしょう。…頼めるな? 巫女殿』
そう言ってこっちに視線を送る領主、笑顔だけど全然目が笑ってない。
そしてつられて全員がこっちを見る、勘弁して?
『御意でございます、領主様』
【私】に言えたのは、その言葉だけだった。
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『…これにより、物質の原子運動というものは加速するよりも減速する方が難易度が高く、呪文により同程度の影響を及ぼす為には一段階高い意識領域、すなわち【位階】を上げる必要があり…』
『分かりますルシア様。…とすると、あえて範囲、効果を絞ることにより、多様な属性の呪文を低い【位階】で実現できるのでは?』
『いい着眼点ね。その場合の注意点としては、本来の【位階】と違う領域を使うことによるイメージの変換と、それを安定させる為の呪文の文言を…』
…ここは【魔術師の塔】の二階。普段は一般の生徒が学ぶ場所だが、今日は臨時休校ということになっている。
【大魔導士】であるルシア師と【賢者】と言えど称号を授かったばかりのマナ姫では、流石に差があると思われたので魔術講義という形式になったのだが…
『…アリシア、分かる?』
『…なんとか。でもこれって導師級になってから学ぶ様なことだよ? ちょろっと理論を聞いただけでここまで展開するなんて、どんだけ地頭良いの…』
後学の為にと思い、共に机を並べた『私』とアリシア、そしてカイヴァン。
『私』とて系統は違えど呪文を使う身。少しは付いていけるかと思ったが、まるで分からない。
…ペン回しでもしてようかしら、出来たことないのよねぇ(現実逃避)
もはや周囲そっちのけでルシア師とマナ姫の談義は続く…
「魔力の原子運動に与える影響の差とその応用」から始まり、
一定の影響を超えた時の精霊界への干渉と、それを切っ掛けとした【精霊召喚】?
その場合の意識領域への影響と、支配を維持する為の精神集中を軽減、もしくは完全に無効にする【精霊支配の器】の作成と、世界そのものへの影響について??
上記を最小限とする為に、予め【異界接触】の呪文を使用し、無作為の精霊ではなく一個の精霊に名を与え【契約】する???
『まあ、それでも極度に世界に影響を与える【地震招来】とかは【土の精霊王】や【大地母神】からの干渉が予測できるわ。使う際は注意すること。以上! 今日はここまで♪』
談義を堪能したのか、ルシア師は機嫌良く上階に上がっていく。
残ったのは同じくご機嫌のマナ姫と、煙を吐いてる『私』とアリシア、そして一心不乱に羊皮紙に講義を書き留めてるカイヴァン。…おお?
『カイヴァン、今の理解出来たのですか!?』
『辛うじて理論だけは…ですが未だ【第二位階】の使えぬ身、意識領域の変更というのがどうにも実感できず…』
なるほど。逆に【神官呪文】の【第二位階】に手の届いた『私』には、そこだけが分かる。
『そうですね…頭の奥にもう一つ棚が出来た気分です。貴方もすぐに分かると思いますよ?』
『…努力します。しかし、よく殿下は理解できますね。まだ称号を授かったばかりと聞きましたが』
カイヴァンがそう話を振ると、マナ姫は少し苦笑して、
『私も【第二位階】はまだ使えませんが【魔術師呪文】と【神官呪文】の両方が使えますので…頭の中に最初から大きな棚が二つあるのです』
その場に居た姫以外の全員の肩がガックリと落ちた。
「まなすごいの?」
「そうだよ~♪」
「でも現実で成るのはすっごく勉強しなくちゃいけないんだから、頑張ろうね?」
「あい!」
「僕も頑張ろうかな…」