何とかセーフ?

『グゴオォォォォォォォォッ!!』

 怒りと悲しみをたたえた赤き【竜王】の咆哮が世界中に響き渡る。

 それに応え、大陸の各地から白、青、黒、緑、黄金、白銀の【竜王】達が現れる。

 目を掛けていた巫女の『私』が死に、最早この世界に価値は無いと断じた彼らは、正しく全てを滅ぼす為に集ったのだ。

 それを眺める『私』。肉体を失い、霊と魂のみになった『私』は、もう現世に干渉することは出来ない。ただ眺めるだけである。

 だが、これもまた良かったのかもしれない。

 きっと、あの怒りと悲しみは「お爺ちゃま」の『私』への愛情そのものなのだろうから…

 さぁ、もう行こう。全ての未練を断ち切り、光の神の御許みもとへ…

 

「「ストップ、ストップ、スト―――ップ!!」」

 語る龍治を二人して止める。ていうか、勝手にシャインを成仏させようとしてるんじゃないわよ!

「え、僕「シャインが死んだら世界が滅ぶ」って言ってなかったっけ?」

「言ってたし聞いてたし突っ込んだけど!?」

「ああ、良かった」

「「良くない!!」」

 話が全く進まない。えーと、落ち着け私、

「龍治? いつ、どこで、どうして、どのように、シャインが死ぬことになったの? まずそれをはっきりしなさい!」

 こういうの、5W1Hって言ったかしら?

「そうだよ龍っち! もうシナリオ終わったんだよね!?」

 と問い詰めると、龍治はゴホンと咳払いし、

「真輝ちゃん、さっきAC16って言ったよね?」

 こくんと頷く。

「シナリオで、グリフォンがシャインに突撃した時「AC16まで当たり」って言ったの覚えてる?」

 ……あ!?

「ああ!? 「16まで当たり」だから、16じゃ駄目だったんだ! 勘違いしてた!!」

「あ! そういう事!? じゃあ、あの攻撃って当たってたの?」

 龍治は頷き、

「うん。それで、さっきダメージのサイコロ振ったら11だったんだ。【突撃】はダメージ倍だから22点。シャインのHPは?」

「……14」

「完璧に死んじゃってるね…」

 私と鏡子から、完全に力の抜けた声が漏れた。

 静かになった私の部屋、これで全て終わりなんだろうか…

 だ、だめ! まだ諦めたくない! だって勿体ないじゃない!!

「龍治!? TRPGには「一度決まったことは覆してはならない」って鉄則があったわよね!?」

 ルールの上、法律でいえば憲法に当たる考えを持ち出してみる。

「うん……でも、これは【ドラゴン・ファンタジー】のルールの根幹だし…」

 う、確かに「ちょっとした勘違い」では済まないことかもしれないけど…

 かといって無理に龍治を説き伏せるのもよくない、それでは龍治のゲームに対する熱意を奪ってしまうだろう。

 ルールにとらわれ過ぎてはいけない、かと言って蔑ろにしてもいけない。だってルールがあるから遊びが成立するのだ、本気で楽しみたいなら最大限ルールを尊重すべきだ。

 考えろ私、AC16じゃ駄目ってことは、逆に言えば「AC17あれば助かった」ってことだ。

 こじ付けでも言い訳でもいい、何かシャインを守るものはないのか…

 そう思ってキャラクターシートを見つめる私、………あ?

「あった…」

 思わず零れ出た私の言葉に、二人がこちらを見たのが分かった。

 夕暮れ時、『私』以外誰も居ない礼拝堂。

 今日は司祭様に無理を言って、ずっと『私』一人で使わせてもらっている。

 朝日が昇ったその瞬間から、『私』は居ても立っても居られなくなり、ここで延々と光の神に祈っている。

 飲まず食わずなので、心配したシスターエレーナが、何度か覗きに来たことも知っている。

 最初は自分でもわからなかった。なぜ、こんな気持ちになったのか。だが今ではもうわかる。

 『私』は光の神に生かされたのだ。

 あの時の有翼獅子の突撃、ローデリックでさえ瀕死の重傷を負ったあの一撃を、『私』が受けて無傷なはずがなかったのだ。

 あの瞬間、『私』の周囲ほんの数インチを光の幕が覆った。

 その防護幕が、本来致命傷だった有翼獅子の一撃を防ぐ最後の一助となったのだろう。

 その最後の守りをもたらした【指輪】を着け、祭壇に向かい一心不乱に祈る。

 光の神よ、感謝します。 

 …やがて日が沈み、『私』が祈りの為に組んでいた両手が自然と下りる。『私』の感謝は光の神に届いただろうか?

 目を開け立ち上がり、後ろを振り向く。すると…

『まるで聖女の様。貴女の祈りは、きっと神に届きましたよ。さあ、食事にしましょう』

『はい。…おなかペコペコです』

 クスリと笑ったシスターが、『私』には【天使】に見えた。

 

「う~ん、う~~ん、う~~~ん……じゃあ、それで!」

 唸り切った龍治が、断腸の思いかの様に告げる。

「「は~~~…」」

 私と鏡子の脱力しきった溜め息が漏れる。あ~、よかった。

 結局何をどうしたかって言うと、

・【アーティファクト】である【指輪】の詳細はまだわかっていない。

・【アーティファクト】は本来複数の能力を持っている。

・なら【トゥルー・ライト】の他にも何か使えるはず!

 ということで【神官】の1レベル呪文である【ホーリー・プロテクション】を使えるという事にしてもらった。もちろん、これだけだとシャインが助かる理由にはならない。だから…

「じゃあ、この【指輪】の能力は、シャインが死に瀕した時に明らかになっていくという事で」

 う…ま、まあ本当に死んじゃうよりは…

「1レベルの呪文なら「一日中神に祈る」くらいのペナルティで済むけど「パーティ全員をダンジョンの奥底から安全地帯までテレポートさせる」とかだと「一年間意識不明」くらいになるから、気を付けてね?」

 ひいいいいい?

「強けりゃ良いってもんじゃないね…」

 鏡子の言葉が身に染みた。