公庫に預けちゃおう

「「おお~~!!」」

 これは、宝物一覧表を見て喜ぶ私と鏡子の声。

「おおぉぉぉ…」

 こっちは、足の痺れが限界に達して悶えてる龍治の声。

「龍っち太っ腹じゃない、ウリウリ♪」

「ああっ!? 今突っつくのはやめてぇ!?」

 うんうん。足が痺れた時って触られたくないし、触りたくなるわよね。

 だから私もやる。

「ああっ!? 両方からはもっとだめぇ!?」

 うん、楽しい。おっと、宝物はこんな感じね。

貨幣

 金貨  1000枚

 銀貨  4000枚

 銅貨 10000枚

武器

 銀の短剣(75gp)×1 

装飾品

 トルコ石のイヤリング(500gp)×2

 プラチナの帽子ピン (100gp)×1

 金のブレスレット  (500gp)×1

宝石

 ガーネット(100gp)×2

 オニキス ( 50gp)×1

 黒メノウ ( 50gp)×1

 黄水晶  ( 10gp)×1

その他

 銀の食器   (1gp)×3

 銀の食器   (5gp)×12

 グラス1ダース(2gp)

合計=3550gp

 ちなみにgpってのは金貨の事よ。ゴールド・ペニーって意味ね。

 同様に、白金貨はプラチナ・ペニー(pp)銀貨はシルバー・ペニー(sp)で銅貨はカッパー・ペニー(cp)になるわ。

「あ、でもこれってハーピーの宝なのよね。思わず喜んじゃったけど」

 我に返った私が言うと、

「そういえば、そっか。まあ、しょうがないか~」

 鏡子も思いだしたようだ。

「そ、その事なんだけど…」

 痺れから立ち直りつつある龍治が口を開く。何か他にあったかしら?

 ヒュウとディーンが口笛を鳴らす。その気持ちも分かる。竜王の宝物には比べるべくもないが、結構な量だ。

『これらは、この館で見つかった物だ。我らは光り物に目が無くてな、見つけると思わず集めてしまう。集めて特にどうこうする訳ではないのだが…』

 ハーピークィーンが苦い口調で告白する。自分でも分からない自分の習性を他人に話すのだ。気持ちはなんとなく想像できる。

 ここはハーピーの館の一室。少し広めの部屋の真ん中に、財宝が積み上がっている。

 ハーピー一族との和解が成立して数日後、クィーンから相談があると『私』達パーティーが呼び出されたのだ。

『男達から聞いた。我らは集めるだけだが、お前達人間には使い道があるのだろう?』

 意を察したカイヴァンが、言葉を引き継ぐ。

『なるほど。我々にこれを管理しろと?』

 ふむ、ハーピー達の為に使えばいいのね。

『いや、やる』

『『は?』』

 誰の声が重なったのか、疑問に思う間もなく、

『くれてやる、と言ったのだ。この館は広いが、我が一族全員と男共が住むにはギリギリというところだ。今後、子供が増えることも考えると、少しでも空けておきたい』

 あ、確かに。大きい館だけど、ハーピー35人と派遣された男性で40人になるものね。

『それに、我らの生活は大きく変わった』

 そう言ってクィーンは、庭に向かう窓を開ける。

 庭では、ハーピー達が狩ってきた猪が数頭、荷車に乗せられて運び込まれている。これから解体されるのだろう。

『今までは、それぞれが狩った獲物をその場で食うだけだった。弱い者や子供は残りがあればそれを漁り、無ければ食えずにいずれ死ぬ。だが今は違う』

 クィーンは表情を緩め、感慨深く言う。

『館まで獲物を運び、解体することによって肉は無駄なく得られ、皮は冬に暖を取るのに使えるという。飢えと寒さで死ぬ者は確実に減るだろうな』

 そう言うとこちらに向き直り、柔らかく微笑む。

『だから、これは礼だ。もし人間と戦っていれば、勝っても負けてもこうはならなかっただろう。我らに戦い以外の道を示してくれた其方らに、これらを送りたい。…受け取ってくれるか?』

 誇らしさの中に、ほんの少しの不安を入混ぜた一族の長の言葉を聞き、『私』は自然と祈りの姿勢をとって答えた。

『有難く戴きます。貴方とこの一族に、光の神の加護が有らんことを』

 返事を聞いたクィーンが浮かべた表情を、『私』はずっと後になっても思い出せた。

「おお~~!!(パチパチパチパチ)」

 私と龍治の一連のやりとりを、最後まで観た鏡子が感嘆の拍手をする。ヤバイ、ちょっと泣けてきたかも…

「良かった~、うんうん、あたし達戦わなくてよかったよね~」

 鏡子が感動続きに褒め称える。う、恥ずかしくなってきた。

「そ、それより龍治、本当に全部もらっちゃっていいの? 一回の冒険の成果にしては、多過ぎるんじゃない?」

 照れ隠しも兼ねて龍治に話を振る。それに、ゴブリン退治で金貨200枚だったことを考えると、やっぱり多過ぎる気がする。

「それなんだけど、さっき二人に言われて、僕思ったんだ」

 龍治が、改まって私と鏡子に向き直る。

「ハーピー35人と数々の罠。これって難易度高過ぎたんじゃないかなって…」

「「今さら!?」」

 思わず鏡子と二人で突っ込む。ほんと、何を今さらって感じよ…

「えーと、だからこの宝は差し上げます。今後ともよしなに…」

 頭を下げた龍治が、分けの分からない言葉で締めくくる。まあ、今回は許してあげましょうか。

 ポチポチと、私が電卓を叩く音が部屋に響く。

「マキ~、まだ終わんないの?」

 ハナから処理を私に任せた鏡子が、せっついてくる。あーもう!

「ややこしいのよこれ! 総額が金貨3557枚で、5人で割って税金が25%でシャインが10%余分に払って…そうなるとシャインの取り分は金貨462枚と銀貨4枚と銅貨1枚だから…金貨500枚の物はローデリック達が貰うことになって…」

「…ロー君やディー君がイヤリング貰ってどうすんの?」

 はっ!? 確かに意味がない、豚に真珠とはこのことか!(失礼…でもないか)

「そうすると、結局売ることになるわよね……龍治、こういうのってそのままの値段で売れるの?」

「宝石や装飾品は、八掛(80%)で買い取っております」

 商人らしい返事が来た。それじゃあ、先に全部売り払ってから…あれ? 宝石はそこまで高くないし、銀の短剣なんかはそのまま使ってもいいような…そもそも宝石の鑑定ってタダなのかしら…あーもう!(2度目)

「ややこしいのよ! 龍治、これ何とかなんないの!? あんた数学得意でしょ!?」

「これ数学関係あるかなぁ…」

 龍治は改めて一覧に目を通した後、

「ちょっと中世っぽくないけど、このシステム使ってみる?」

 と提案してきた。

『ありがとうございました~♪』

 受付の女性の声を背に、建物から出る。

 ここは城の敷地の一角にある「公庫」と言うところだ。ここでは税金を納めたり、家に置いておくには不安になる様な大金を、預けることが出来る。

 今回の冒険の成果、総額金貨3000枚を超える財宝。5人で分けても一人600枚以上。一般人から見たら、軽く年収を超えちゃう額なのよ。

 神殿に住む『私』や、塔に住むアリシアとカイヴァンはまだいいけど、宿屋住まいの二人は不安よね?

 だから直接ここに持ち込んだの。

 ここでは領主ログナーの名の下に、持ち込まれた宝を相場の「100%」で貨幣に換算して預かってくれるの。

 今回で言えば、金銀銅の貨幣と、雑多な宝飾品を全部まとめて「金貨3557枚」として扱い、そこから各々の税金分を差し引いた金額が、最終的にその人が公庫に預けた金額になる。

 『私』の分で考えると、シナリオの最初に商人から貰った銀貨100枚も足して…

   取り分=金貨721枚 銀貨4枚

    税金=金貨180枚 銀貨3枚 銅貨5枚

 十分の一税=金貨 72枚 銀貨1枚 銅貨4枚

  差し引き=金貨468枚 銀貨9枚 銅貨1枚

 になるわね。

 このまま預けても良いんだけど、せっかくだから銀の短剣と黄水晶は手元に置くことにしたわ。あ、あと現金も幾らか持っておきたいから…

 公庫預かり=金貨350枚

   手持ち=銀の短剣、黄水晶、金貨33枚、銀貨9枚、銅貨1枚

 と言うことになったわ。細かいのを預けておいても何だしね、切り良くいきましょ。

 銀の短剣は、ディーンに似合うかと思ったんだけど、

『普段使いには立派過ぎやすわ。神官のお嬢が持ってた方が良いんじゃないっすか?』

 って言われたの。

 あと、黄水晶は日頃の感謝を込めて、シスター・エレーナに渡そうかなと。いつか結婚式で使ってくれたらいいなぁ。

「へ~、よく出来てるね。あたしはこのガーネット2個にしようかな? 1個はお姉ちゃんに返す分で、もう1個は自分用に♪」

 鏡子が楽しそうに言う。確かに便利だけど、これ大丈夫なのかしら?

「龍治、これって問題ないの? 悪徳商人に悪用されたりしない?」

 100%で預かるなんて、無理っぽいんだけど。

「額面は100%だけど、預ける度に25%引かれるから問題ないと思うよ? 領主的には納税率が上がるのが一番じゃないかな」

「そっか、実質75%なんだ。でもどうせ税金は払わなくちゃいけないし、手間が省けていいのかな?」

「うん、むしろ脱税したい悪徳商人ほど使えないだろうね。でも、そういう店には何故か盗賊の被害が…くっくっく」

 龍治が怪しく笑う。そうだった、ここの領主は盗賊ギルドのマスターと仲間だった…

【イースト・エンド】の闇を覗いてしまった気がする…