最も重要なルール

「「………」」

「どうかな、ゲームマスターハンドブックに載ってたダンジョンを参考にしたんだけど」

 絶句してる私達に、龍治が照れくさそうに言う。

「…なんて言うか、龍っち、えっぐいね」

「あんた、私達を生かして帰す気無かったでしょ」

 と、半ば非難を込めて言うと、

「いや~それほどでも」

「褒めてないよ?」

「褒めてないから」

 ずれた返事に二人で突っ込む。

 どんだけ酷いのかって? 今から説明するわね。

 ルーズリーフに書いてある説明を、私が読み上げる。

「この部屋に入ると、上からグリーンスライムが降ってくる。「上を警戒する」と宣言していなければ取り込まれてしまい、6+1d4ラウンド後には完全に消化されてしまう。犠牲者を解放する為には火で焼くしかないが、焼かれている間は犠牲者も半分のダメージを負う(グリーンスライムのHPは10)」

「ちょっと古典的な罠だったかな」

 反省気味に呟く龍治。うん、反省するのはそこじゃないから。

「あのね龍治、昼間に館の探索をするのに松明って点ける?」

「火事が怖いから点けないね」

 わかってんじゃない。

「このパーティだと、先頭のディーンかローデリックが被害者になると思うけど、スライムに襲われて、火が必要って分かって、最大10ラウンドだから1分40秒? その間に火打石を使って松明に火をつけて、スライムを焼き払えるの?」

 龍治は視線を上に上げ、ちょっと考えた後に言う。

「無理じゃない?」

「………」

 訪れる沈黙。すると鏡子が、

「じゃあ、次あたしね。その奥の部屋なんだけど「部屋に可燃性のガスが充満している。火が点いた物を持ちこむと爆発して2d6ダメージを負う」って書いてあるよね?」

「うん。爆発にしてはちょっとダメージ小さいかな?」

「…マキ、カイくんのHPっていくつ?」

「2」

 ………

「火の扱いは注意しないとね」

 龍治の声が空しく響く。ジト目になった私と鏡子は、お互いに顔を見合わせ一つ頷く。

「龍治、そこ正座」

 律義に正座する龍治に、こんこんと問い詰める。

「龍治、なんで即死する罠ばかり置いたの?」

 龍治は不思議そうに、

「罠って相手を殺す為じゃないの?」

 と返してくる。そりゃ、そうだけど!

「死んだら死んじゃうでしょ!? あんたゲームここで終わらす気!?」

「でも手を抜いたら失礼だと思うし、スリルも必要かなって…」

「即死じゃスリル味わう暇もないでしょ! 残った仲間のトラウマになるだけよ!」

 全く、ああ言えばこう言う。……考えろ私、理屈に偏りがちな龍治に気付かせる為には…そうだ!

「龍治、ゲームマスターハンドブックを見せて?」

「え、プレイヤーは基本的に見ちゃいけないんだけど…」

「大丈夫よ、モンスターのデータとかを見たい訳じゃないから」

 と言って本を開く。恐らくこういう問題は、このゲームが出来た頃からあったはずだ。先人達はそれをどうやって乗り越えたのか? 私の考えでは、最初の方のこの辺りに…あった!

「龍治、ここを読んで?」

 そこには“最も重要なルール”と書いてあった。

 四畳半の私の部屋に、朗読する龍治の声が響く。

「君がGMとして行う全てに対して適応される一つのルールがある。それは“公正であれ”と言う事だ。君はモンスターとキャラクターのどちらも贔屓ひいきしてはいけない。モンスターを扱う時は、君が想像できる範囲で彼らが実際に行うであろう行動を取らせる必要がある。だが忘れるな、戦っているのはモンスターとキャラクターであって、君とプレイヤーではないのだ! 君達は、楽しむ為にゲームをしているのだということを、常に頭の片隅に置いておいて欲しい。~愚かで意地っ張りな先駆者たちより~」

 読み終えて一息つく龍治。私の隣では鏡子がコクコク頷いている。

「…分かったよ、真輝ちゃん。僕は沢山のルールを頭に入れるのに夢中で、大切な事を忘れていたんだね」

 私の言いたい事は伝わったようだ。

「確かにそうだよね…GMはやろうと思えばどんな強いモンスターでも、どんな酷い罠でも作れるんだから、フェアじゃないよね」

 うんうん、これに懲りて龍治も立派なGMに…

「それに、一回のダンジョンで全滅なんてつまんないよね。生かさず殺さず苦しめないと…」

 …ん?

「その点で言うと、この罠は良かったと思ってるよ。二人とも、見てみてよ!」

 差し出されたもう一枚のルーズリーフを読む。

「食堂。木製の長いテーブルの上に、金のディナープレートが並んでいる。だが冒険者がそれを手に取ると、小さな胞子が雲状に舞い上がる! 実際はディナープレートは金ではなく、黄色い毒の苔に覆われていたのだ! 近くに居たキャラクターは、難易度1の肉体抵抗判定に失敗すると、窒息して6ラウンド後には死んでしまう…?」

 私が読み終わると、龍治は晴れやかな表情で、

「ちゃんと解決策も用意してあるよ。窒息した場合、三部屋離れた寝室のベッドに寝かせれば治るんだ。よく出来てるよね?」

 ………

「龍っち、なんで窒息がベッドで寝ると治るの?」

 鏡子の1ツッコミ。

「え、魔法のベッドだから…?」

「龍治、そのベッドの効果はどこかにヒントとして書いてあるの?」

 私の2ツッコミ。

「いや、特にないけど?」

 ………

「もう1つ、三部屋離れた寝室って、6ラウンド以内に行けるの? このゲーム、移動に時間掛かると思ったけど」

「…普通に行ったら20分くらい掛かるかな?」

 はい3アウト。私と鏡子は、再び顔を見合わせ頷く。

「龍治、あんた何も分かって無い様ね」

「龍っち、もうちょっと考えた方がいいと思うよ?」

 ゆらりと立ち上がる私と鏡子。

「…あれ?」

 龍治の足が完全に痺れるまで、私と鏡子の説教は続いた。