普通の意義

 林の中の獣道を、しばらく西に進む。すると不意に視界が開き、その先には、古いが立派な造りの洋館が佇んでいた。

『これは…』

 思わず声が出る。昔の貴族の別荘だろうか? だとしたら、さぞかし裕福な貴族だったのだろう。ここまで立派な建物は【イーストエンド】でもあまり見かけない。

 

「君達が見入っていると、洋館から歌が聞こえてきた。その歌は君達の頭の中をかき乱し、正常な判断を出来なくさせる! …と、いう訳で精神抵抗判定どうぞ。難易度は3ね」

「くっ…これが精霊の言ってた歌ね」

 多分失敗すると、旦那さんの様に引き寄せられてしまうのだろう。

「頭をかき乱すって、ヘヴィメタとかラップの事? あれ聴いてるとノリが変わるよね♪」

「…それとは違うんじゃないかしら?」

 

 判定結果

 成功:シャイン、アリシア

 失敗:ローデリック、カイヴァン、ディーン

 男共三人が手に持っている物を落として、フラフラと洋館の入口に向かう。ええぃ、これだから【信仰心】の低い連中は!

『しっかりしなさい!』

 言いつつ三人の頬をひっぱたいていく。すると、それぞれ目の焦点が戻り、意識を取り戻す。

『くっ、俺は一体…?』

『助かりました、マスター』

『お嬢、ありがてえんですが、小手を外してから叩いて欲しかったっす』

 ディーンが頬を手で抑えつつ言う。急いでたんだから、贅沢言わない。

 改めて装備と隊列を整える。歌はまだ続いているが、一度抵抗してしまえばしばらく大丈夫なようだ。

『では踏み込みます。ローデリック?』

『応!』

 答えつつ戦士が扉を蹴り開ける。こんな獲物の呼び寄せ方をしているのだ、正面玄関に罠なんてないだろう。

 踏み込んで内部を見渡す。そこは玄関ホールになっていて、左右に二階へと続く階段と扉があり、そして中央には…!

 

「中央の開いたスペースには藁が積み上がっていて、その上で一人の男と三人の女性が睦みあっている。だがしかし、男性は焦点の合わない目をしており、女性に至っては人間ですらない。上半身は人間でも、背に翼を生やし、下半身が鷲という生物を「人間」とは言わないだろう。そのモンスター【ハーピー】は、君達が入ってきたのを見ると歌を止め、語りかけてくる」

 

『ほぅ、わらわ達の【魅了の歌】を跳ねのけるとは、名のある勇者と見た。面白い、かかってくるがいい!』

 

「そう言って身構える。じゃあ戦闘ということでイニシアチブを…って、二人ともどうかした?」

 私と鏡子が微妙な顔をしていることに、龍治も気づいたようだ。

「…龍っち、「睦みあっている」って…そういう事?」

 鏡子が聞きづらそうに言う。

「え? ああ、セック…」

「言わんでいい!」

 すかさず突っ込む。えぇ、分かってる。中世ファンタジーを扱ってる以上、こういう描写は必要悪だってことくらい。…だが!!

「龍治、そのハーピー達は…その、上半身裸なのよね? じゃあ一応聞くけど……胸はどのくらい?」

「む、胸? えーと…普通?」

 …普通?(カチン)

 私は本棚から下着のカタログをスッと取り出し、カップサイズ一覧の載ってるページをバッと開き、龍治にバンと見せつけて問い質す。

「…龍治、アンタの言う「普通」って…どれ?」

 龍治は私と一覧を交互に見たあと、恐る恐る指先で指し示す。

 …ブチン!

「Dは「普通」じゃな―――い!!」

 久方振りに、私の悲鳴が近所にこだました。