来客と訪問と…

『お客様、ですか? 私に?』

 午前の見習いへの講義中、講義室にやって来たシスター・エレーナが、続けて口を開く。

『ええ、ノイマンさんという方で、先日のお礼をしたいとか。講義は私が行いますから、早く行ってあげなさい?』

 名前を聞いて納得する。手早くシスターに引き継ぎ、廊下を早足で進む。神官たるものあくまで優雅にね。

 ノックをして応接間に入ると、見知った商人が笑顔で迎えてくれた。

『早くにすみません。午後に来れれば良かったんですが、急な仕事が入ったもので』

『いえ構いません。それより、お体は大丈夫ですか? その後調子が悪くなったりとか…』

 商人は、それに笑顔で答える。

『はい、大丈夫です。むしろ以前より良いくらいで、ハハハ』

 そして、脇に置いてあった皮袋を持ち、こちらに差し出す。

『では、こちらをお納めください。先日のお礼と、光の神への寄進です』

 

「なになに? マキはいきなり何か貰えるの?」

 鏡子が身を乗り出し、羨ましそうに聞いてくる。

「これ? 前回のシナリオで商人を助けたのよ。そのお礼を貰ってるとこ」

 情けは人の為ならず、ってね。

 

『ありがとうございます。神殿の運営に使わせていただきますね。ノイマンさんに光の神の加護がありますように』

 そう言って袋を受け取り、祈りを捧げる。お金目当てにやった訳じゃないけど、突っ返すのも失礼よね。うんうん。

『では、私はこれで。…あ、そうそう』

 そう言って商人は苦笑いを浮かべ、言葉を続ける。

『先日の件で、神官様の噂が街中を駆け巡っています。気を付けた方がよろしいかと、…色々と』

 自分の顔が引きつったのがわかる。

『……存じています。では…』

 別れ際の空気が、かなり微妙なものになってしまった。

 

「…マキ、何やったの?」

 鏡子にも話さなくちゃいけない…わよね? はぁ…

「は~…ゴブリン退治に行ったら竜王? と仲良く帰ってきた、ねぇ…」

 鏡子がなんとも言えない表情でこっちを見てる。わ、私だけのせいじゃないし? 龍治も共犯(?)だし?

「それって、街の人達からしたら、何の解決にもなってないよね。むしろ不安が増したんじゃない?」

 ああああああ! 気にしてることを!

「いいの! 取りあえずゴブリンは退治したんだし、竜王はシャインと仲が良いんだから、いきなり街を襲うことはないだろうし…あ!?」

 話してて、重大な事に気がついた!

「龍治! そういえば、あの奇妙なゴブリンはどうなったの!? 倒した覚えないし、竜王からも聞いてないんだけど」

 龍治は、なんてことない顔で、

「あれ、言ってなかったっけ? えーと、気性の荒いレッド・ドラゴン、しかも竜王級の個体相手に「人間に負けました、助けてください」なんて言ったらどうなると思う?」

 どうなる? って…

 言葉に詰まってると、鏡子が当たり前のように答える。

「プチっと潰しちゃうんじゃない? 「そんなことで一々来んなー」って感じで」

「うん、当たり。竜王に聞けば、血の染み跡くらいは見せたんじゃないかな?」

 …つくづく、とんでもない相手だということが分かる。

「ねぇ龍っち、あたしの出番はまだ?」

 待ちきれないのか、鏡子がせっつく。…こら、突っつくんじゃない。

「わわわ? も、もうちょっと待ってね。すぐだから」

 龍治も困ってるけど、満更でもなく見える。…逆側から突っついてやろうかしら。

 

『マスター、我が師が頼みたい事があるそうです。塔までご一緒願えませんか?』

『ルシア師が? わかりました、すぐ向かいます』

 午後一の客はカイヴァンだった。しかし珍しい、ルシア師が『私』に頼み事とは。…もしかして『お爺ちゃま』関連だろうか? そう考えると気が重い。

 カイヴァンを従え、魔術師の塔に向かう。塔の位置は、神殿と城と塔でちょうど正三角形を描く様になっていて、中央広場の向こう側にある。

 道すがら、街行く人達の視線を感じる気がする。気のせいだと思いたい…

『いらっしゃい、シャイン。案内ありがとう、カイ』

 5階建ての塔の最上階、大魔導士ルシアのプライベートフロア。その一番手前の客間に入ると、本人が迎えてくれた。

『ご無沙汰してます、師ルシア。『私』に何か御用と聞きましたが』

 別に『私』はルシアに直接魔法を教わったりしてるわけではない。だが、司祭様の冒険者仲間であり、機会があれば色々教えてくれるこのエルフに、礼を欠かす事は出来ない。

『いえね? 用というか、ちょっと面倒を見て欲しい子がいるのよ』

 子? 子守だろうか。見習いの時に散々やってるから、特に問題はないが、

『子守ですか? 構いませんけど、失礼ながら、師にお子さんは居なかったかと…』

 『私』がそう言うと、ルシアは慌てて手を振り、

『違う違う! そういう意味じゃなくて…あ~、直接話したほうがいいわね』

 そう言って横を向き『入ってきなさい』と声をかける。すると、奥の私室に繋がるドアを開けて出てきたのは…

『ハ~イ! あなたがマ…じゃなくてシャインね? あたしはアリシア! これからよろしくね♪』

 妙にテンションの高い、胸の大きなエルフの娘だった。