日曜日にレベルアップ♪

 薄暗がりの部屋の中、魔術師が呪文を唱える声が響く。

 戦闘中に使う呪文とは違い、この手の所謂【占術】に分類される呪文は、時間がかかる事が多いらしい。

『私』は黙って「指輪」を付けた右手を、机の上に差し出しつつ待つ。

 しばらくすると、魔術師の声が朗々と上がり、一つの輝きを生み出して呪文が終わる。

『…分かりました、マスター』

 魔術師が自信を持って告げる。

『これは、魔法の指輪です!』

『わかっとるわ!』

 従者の魔術師に『私』のツッコミがさく裂した。

 …さて、どこから説明しようか。

「ふぅ、これで終わりっと」

 宿題のテキストをパタンと閉じる。向かいの龍治は…

「う、僕はもうちょっと掛かりそう…」

 あら、まあ勉強は個人のペースでやるものだしね。

「急がなくていいから、しっかりやんなさい? 何か飲み物持ってくるわね」

 そう言って下に降りようとすると、

「ふあ~~…ん、おはよう真輝」

「あ、おはようお父さん。良く眠れた?」

 と言っても今は日曜日の12時ちょい前。お父さんは土曜日まで働いてると、大抵次の日の日曜日はお昼前後まで寝てしまう。それだけ疲れてるんだろうから、好きなだけ寝かせてあげようと言うのが我が家での取り決めだ。

「ああ、久しぶりに熟睡できたよ。…母さんは?」

「下でお昼ごはん…お父さんにとっては朝御飯だけど、作ってるわよ? そうだ、龍治も食べてく? それとも一度帰って食べてくる?」

「ん~…ご馳走になろうかな。今日は二人とも居ないし」

 龍治の両親は、共働きな上に休みが不規則だから、こういうことがよくある。

「分かったわ、ちょっと待ってね。お母さーん! 私も手伝うー」

 と、下に声をかけると

「え? あ、え、ま、真輝は遊んでなさい? お母さんがやるから…」

「スルーしないで!? 私、頑張るから!」

 家族は協力するべきだと思う。…私の料理上達のために。

「ご馳走様ー」

 昼食はカルボナーラだった。ミートソースもナポリタンも良いけど、私はこれが一番好きかな。

「私達は宿題終わったから、ゲームしようと思うけど、お父さんとお母さんは、今日はどうするの?」

 と聞くと、お父さんは肩をトントン叩きながら、

「ん~、今日はゆっくりしようかな。本でも読んで過ごすよ」

「お母さんも、買い物は昨日行ったから、家に居るわ。服の直しでもやろうかしら?」

 お母さんは色々出来る。…なぜ私に遺伝しなかったのか、お父さんに似たのか?

「そうだ、二人とも昨日初めてドラゴン・ファンタジーやったんだろう? 珍しいジャンルだから、苦労したんじゃないか?」

 む、確かに。龍治なんか殆どルールブックと首っ引きだったし。

「そうねぇ…色々分からない事ばかりだったけど、とにかく死にやすいのが問題だと思ったわ。あと、魔術師は呪文一種類しか知らないってのがびっくりね。あれじゃ【スリープ】一択じゃないかな?」

 と言うと、お父さんは一瞬考え込むような表情をした後、何かに気づいたような顔になって言った。

「ああ、それは誤訳だ」

 ………はい?

「「魔術師は最初、呪文を一種類しか知らない」というルールだろ? その後訂正されて「魔術師はキャラクター作成時に二種類の呪文を知ってる」となったんだ。当時は結構有名な話だったんだが、そりゃ真輝達は知らんよなぁ」

「なにそれ!? ってお父さん!? まさか他にもそういうのが色々あるんじゃ…」

 すると、今まで黙っていた龍治が、納得したような声で、

「あ、じゃあやっぱり「プルトニウム貨幣」っていうのも間違いですよね? 多分「プラチナ貨幣」のことだと思って流したんですけど」

 知ってて流してたんかい。

「ああ、それはよくネタとして言ってたねぇ。「価値は高いけど被爆する」って、あははは」

 笑い事か…?

「…龍治? 昨日のゲーム内容を、お父さんに聞いて貰った方がいいんじゃないかしら? 多分他にもやらかしてる気がするんだけど…」

「…そうだね」

二階の自分の部屋に戻って、お父さんに説明する。すると…

「これはまた…何というか、随分とはっちゃけたねぇ…」

「そ、そんなに?」

 そりゃあ「ゴブリン退治に行ったら、竜王と仲良く帰ってきた」というのは自分でも何かなと思うけど…

「ん? ああ、ドラゴン云々もそうだけど、指輪もだね」

「え? ペンダントはともかく、指輪はサイコロで決めたんだけど、何が問題なの?」

 龍治を見ると、横でウンウンと頷いてる。

「龍治くん、指輪を決めるのに使った宝物決定表はどれだい?」

「あ、これです」

 と言って緑色のゲームマスターハンドブックを出す。あれ? 色は赤じゃなかったっけ?

「やっぱり。こっちは高レベル用の表だから、本来使うのは赤い本のだね」

「え!? ざっと読んだ時に、どっちにも表があったから、どっちを使ってもいいのかと…」

 どうやら使う表を間違えたらしい。…よく考えれば、1レベルの冒険でオリハルコンの指輪なんか普通出ないか。

「緑の本がまずかったってことは、ペンダントもダメですか? 最高レベルの黒い本から出したんで…」

 …お前は何をやってるんだ?

「ん~…でも竜王からの贈り物として出したんだろう? それなら仕方ないと言えるなぁ」

 仕方ないってなに!?

「ちょっと! 二人して分かり合ってないで私にも教えてよ!」

 そう言うと、二人で顔を見合わせて、

「ゲームマスター用の知識だから…」

「真輝、世の中知らない方が良いことも多いんだよ」

「どんなフォローよ!?」

 色々アドバイスしてくれた後、お父さんは隣の部屋に戻っていった。 

「じゃあ始めましょうか。昨日は…街に戻ってきた所でお母さん達が帰ってきたんだっけ。なら冒険の後始末からかしら?」

「そうなるね。あ、取った宝は纏めてあるから」

 そう言って龍治は、一枚の紙を出す。

宝物一覧

・金貨 200枚(報酬)

・銀貨1000枚

・銅貨2000枚

・光の神の指輪

・竜王のペンダント

「あ、銅貨も全部持って帰ったってことでいいの?」

「うん。ローデリック達が帰りに頑張ったっていうことで。で、どう分配する?」

「どう…って、全員で分けるんじゃないの?」

 普通は皆で山分けよね? 

「パーティの全員がプレイヤーのキャラクターならそうだけど、ローデリック達3人はシャインの従者扱いだからね。従者は雇い主の半分になるんだ」

 そっか、立場的にはそうなるのね。

「ん~…でもそうすると、シャインだけが早くレベルアップしちゃわない? それだと色々不味そうだから、山分けでいいわ」

 シャインの性格的にも、似合わないわよね。

「わかった。じゃあそれに合わせて経験値の計算するね」

経験値

・シナリオ達成=1000点(各自)

・商人救出  = 100点 (シャイン)

・竜王との交渉= 100点 (シャイン)

・財宝    = 320点(分割)

・モンスター = 380点(分割)

結果

・シャイン=1375点

・他3人 =1175点

・財宝(各自)=金貨50枚、銀貨250枚、銅貨500枚

「あー!? もう少しでレベルアップだったのに……。龍治、ボーナスとか無いの?」

 神官は1500、盗賊は1200でレベルアップなのだ。シャインとディーンがあとちょっとで上がるのに…

「あれ? あったと思うけど(ペラペラ)」

「あるの!?」

「ほら、ここ。…ていうか、プレイヤーズガイドの方なんだから、真輝ちゃんの管轄だと思うんだけど…」

 見ると「職業毎の必要能力値が16以上の場合、経験値に+10%のボーナスが付く」と書いてある。

「う…ごめん。読み飛ばしてたかも…」

 そう言って視線をそらす。ちなみに必要能力値はこんな感じ。

・シャイン  【信仰心】=16

・ローデリック【筋力】 =17

・カイヴァン 【知力】 =15(1足りない)

・ディーン  【敏捷性】=16

 だから、カイヴァン以外はボーナスが付くので、最終的にはこうなる。

・シャイン  =1512(レベルアップ♪)

・ローデリック=1292

・カイヴァン =1175

・ディーン  =1292(レベルアップ♪)

 戦士は2000点、魔術師はなんと2500点なので、二人はまだお預けである。

「そのまま上げる? それともマルチクラスにする?」

「マルチクラス?」

「神官専業で上げるのか、それとも他の職業と兼業するかって事。例えばシャインが魔術師を1レベル上げれば、魔術師魔法も使える神官になれるよ?…まあ、その場合経験値2500点必要だし、鎧を着たままじゃ、特技が無いと魔術師魔法は使えないけど」

「…なんか、便利と言うより器用貧乏になりそうね」

 しばらくは神官一筋でいいかな?

 両手を組み合わせて一心に祈る。神様、どうかこの二人に加護を…!

「日曜日に使われる神様ってどうなんだろう…」

「大丈夫よ、神様ってきっと自営業(?)だし! 休日に問い合わせの電話が来たってことで」

 隣の部屋から「やめてくれー」と言う声が聞こえたが、気にしないで、ていっ(コロコロ)

 出た目を見て、我が目を疑った。

「8と6…って二人とも最高値!? 神様、休日対応感謝です!」

 と言うと「今日はもう店じまいー」と隣から声がする。身近な神様である。

「じゃあシャインがHP14で、ディーンが12と。凄いね、戦士でもなかなか居ないよ?」

 確かに。ローデリックは7だし、カイヴァンに至っては2だものね。

「ローデリック達のレベルが上がるまでは、シャインが守りの要ってわけね? 神官戦士っぽくていいじゃない」

 儚い神官からは離れてるけど…

「147cmの真輝ちゃんの後ろに隠れる大の大人達って考えると…」

「…絵面はかなり情けないわね」

「あと、レベルが偶数になったから、能力値をどれか一つ増やせるけど、どれにする?」

「好きなのでいいの? どうしようかな、短所を補うか長所を伸ばすか…」

 【敏捷性】は上げたいし、【信仰心】も【魅力】も伸ばしたい。悩みどころだ。

「アドバイスするなら、レベルアップの時は長所を伸ばした方が良いと思うよ?」

「どうして?」

「能力値は経験値でも上げられるんだ。でも、低いのを上げるのは楽だけど、元々高いのを上げるのは大変なんだ」

 具体的に言うと、シャインが経験値で【敏捷性】を9から10にするためには、

・(9+10)×100=1900点

 が必要で、これが【魅力】を18から19にしようとすると、

・(18+19)×100=3700点

 も必要らしい。確かにタダで上げられる時は、長所を伸ばした方が良いわね。

「じゃあシャインは【魅力】を上げて、ディーンは【敏捷性】を上げるわ。ふふっ、これでシャインは人間の限界を超えた【魅力】19よ!」

「…次に竜王の所に行ったら、帰してくれなさそうだね」

 …その発想はなかった。

 それぞれキャラクターシートに書き写す。これで全部終わったかな? …ってそうだ!

「肝心なのを忘れてたわ! 呪文よ、呪文! シャインと、あとカイヴァンのも!」

 シャインはレベルアップしたし、カイヴァンはルール(?)変わったし

「それがあったね…じゃあ、はい真輝ちゃん」

 と言って龍治はプレイヤーズガイドブックを私に手渡すと、おもむろにドラゴン・ファンタジーのサプリメントを読みだす。

「決まったら言ってね? …出来たらこれを読み終わる前に」

 ぐぬぬ…確かにシャインの時には手間取ったけど、さすがにそこまでは掛かんないわよ!