一つの結末

『うわぁ……』

 いつもは見上げている雲が下に広がる。その雲に遮られる筈の太陽は、何の妨害も無く頭上で燦々と輝く。そして、視線を前に向けると、大地が緩やかな曲線を描きつつ広がり、その先には水平線となっている。

『お爺ちゃま…これが「世界」なのですか?』

 赤竜は翼を大きく広げ、ゆったりと滑空しつつ答える。

『はっはっはっ、これは未だほんの一部じゃ。そなたは、いずれ光の神の使徒として世界を巡るのであろう? それがどれだけ果て無き事なのか、先にチラッと見せてやろうと思ってな』

 ゴクリと唾を飲み込む。確かに、これは過去、誰も最後まで成し得なかった事だろう。

『どうじゃ? 怖気づいたか?』

 煽るような言葉、だが『私』は…

『…いえ、逆にやる気になりました。果てが無いと言う事は、どこまで行っても楽しめるってことですよね?』

『はーっはっはっはっ! いい返事じゃ、存分に楽しむと良い。「人」の命は短い、なら楽しまねば損と言うものよ!』

 そう言うと、赤竜は首を少し下に向け、風に乗りつつ降下する。

『じゃが、まずは力を蓄えるべきじゃ。今のそなたでは、大いなる旅には耐えられまい。いま住む地の全てを、己が物にするくらいでないとな』

『はい、頑張ります!』

 そうして『私』は、街へと帰って行った。

 その後の事は何と言うか…いえ、『私』が主導した訳じゃないんだけど、ちょっとした意識の違いと言うか…

 ほら、街に直接『お爺ちゃま』で乗り付ける訳にはいかないじゃない? だから、少し手前で降ろして貰おうとしたんだけどね?

『まあまあ、ついでじゃ。「人間」に少し挨拶しておこう』

『…はひ?』

 そう言うとお爺ちゃまは、低空で街の上空を何度か旋回してね? そしたら街の人が怖くて逃げ惑ってね?

『くっ、竜王級の赤竜だと!? 全軍迎撃準備! 我らの命に代えても民を護るぞ!』

 領主様が兵を率いて出てきちゃってね? でもお爺ちゃまは、そんなことは全く気にせずに城の中庭に降りて、『私』を頭から降ろしてこう言ったの。

『聞け、人間達よ。我は南東の山を治める竜王なり。此度、我はこの光の使徒を、我が巫女に任じた。以後、巫女に害をなす事は一切許さん。万一の時あらば、この街に留まらず、周辺全てを地獄の業火で焼き尽くしてくれよう。…努々忘れんようにな』

 とても大きい思念派だったから、街の住民全員に聞こえたんじゃないかな?(遠い目)

 【竜の威圧】にあてられた領主様は、ガクガク頷くだけだったなぁ…(更に遠い目)

『では、またな。体に気を付けるんじゃぞ?』

『………はい。お爺ちゃまもお元気で』

 そして、お爺ちゃまは山に帰って行った。…さて、どう収拾付けようか。とりあえず、この「周囲の人間全てが、無言で私をじっと見つめている」と言う状況はどうにかしたい。

 あ、そうだ。

『領主様? 遺跡のゴブリンを退治しましたので、報酬を頂きたいのですが』

 それを聞いた領主様は、

『………………大儀であった』

 と、絞り出すのが精一杯だった。

「これでシナリオ終了。真輝ちゃん、お疲れ様」

 一息つきつつ言う龍治。だが、

「…これ、シナリオ通りなの?」

 なんか、ずいぶんと「かっとんだ」気がする。うん、色々な意味で。

「あ~…サイコロの目が変な風に爆発した結果、かな?」

 ぐ、それを言われると…振ったのは主に私だし…

「「ただいま~」」

 ん? お母さん? お父さんも一緒?

「お帰りなさーい」

 下に降りて出迎えると、玄関で二人ともにこやかに笑って立っている。何か良い事有ったのかな?

「ついそこで買い物帰りの母さんと会ってね。いや~土曜出勤は定時で帰れるからいいな♪」

 …お父さんの会社は、本来週休二日制だと思ったけど。お父さんは会社と社会に騙されてるんじゃないだろうか?

「真輝?」

 と言いつつ、お母さんが私の左肩にポンと手を置く。なんだろ?

「帰ってくる途中、斜向かいの奥さんに「お宅の真輝ちゃんも、元気なのはいいけど、もう少しお淑やかな方が良いんじゃないかしら? ウォーとかワォーとか言ってたわよ?」って、嫌味ったらしく言われたんだけど。お母さん、騒ぐなって言ったわよね?」

 あう…

 返事に困ってると、今度はお父さんが私の右肩に手を置く。

「あ、お父さん?。本棚にあったドラゴン・ファンタジーが凄く面白くて…」

「うん、それは良かった。でも真輝、お父さん「本棚には勝手に触らないように」って言わなかったか?」

 ぐう…

 そして今気付いた。二人とも顔はにこやかに笑っているけど、目が全然笑ってないと言う事に…って、痛い痛い! 肩を掴む手がだんだん強くなってる!?

 こ、この場を切り抜けるには…そうだ、龍治! 私だけが悪いんじゃないってことを…!

「ごめんなさい叔父さん、叔母さん。僕、出来る限り止めたんですけど…」

 いつに間にか降りて来ていた龍治が言う。こいつ、私を売りやがった!

 うんうん頷く我が両親。実の娘より近所の幼馴染を信じるって言うの!? くっ、こうなったら…

「えーと、ご、ごめんなちゃい…?」

 精一杯かわいく言ったけど、ダメだった。