技能を決めて遺跡に行こう!

 1時間ほど離れた遺跡に向かって『私』達は歩を進める。待ってなさいゴブリン達、この神官シャインがあなた達の非道を止めて…

 

「そうだ真輝ちゃん、このサプリメント使う?」

「む、せっかく気分出してたのに…サプリメントって健康補助食品のこと? 私達まだそんなこと気にする年じゃないと思うけど」

「違う違う…って意味合いは一緒なのかな? ドラゴン・ファンタジーの追加ルールの事だよ」

 龍治が差し出したのは、ルールブックと同じサイズのこれまた薄い本。似たような絵柄の表紙で、一目で関連書と言うのが分かる。

「なにそれ、『エンゲフェルト公国』? このゲームの舞台ってこの国なの?」

「いや、そこら辺はまだ決めてないけど。見てみたら面白そうなルールが有ったんで真輝ちゃんも気にいるかなって」

 パラパラと捲って見ると、国の成り立ちや法律、重要なNPCなどがズラッと書いてある。ふむふむ、ゲーム発売後に配信されるダウンロード・コンテンツの様なものか。見ていくと最後の方に追加ルールという項目があった。

「なになに「この技能ルールは貴方のキャラクターに深みを持たせることに役立つでしょう」…なんかエキサイト翻訳みたいな文章ね」

「昔のゲームだし、翻訳って仕事は大変だっていうから…ともかく使ってみる?」

 どれどれ、【強打】【かばう】【応急手当】…たくさん有るわね。これらを組み合わせてキャラクターの個性を出せと。

「いくつ取っていいの?」

「1レベルのキャラクターは1個だけど、種族が人間だともう1個。合わせて2個だね」

 なるほど、それが人間と言う種族の利点なのか。…ん? でもなんでも取れるってわけじゃないみたい、どうやら能力値に対応しているようで、それぞれ12以上必要と書いてある。

「【かばう】隣接した対象に向かう攻撃を代わりに受ける、【敏捷性】12以上。…なるほどね、とっさに庇おうとしても鈍い奴には出来ないと…ふふっ、言ってくれるわね」

「あ~…シャインには出来なくても、実際の真輝ちゃんは出来そうだけど…ゲームだから、ね?」

 いいわよ龍治、無理に慰めなくても。シャインは守られる立場だからいいのよ、ふんっだ。

「よし、決まったわよ!」

「あれ? もっとかかると思ったけど、早かったね」

「欲しくても能力値が足りなくて取れなかったりするから、こっちの方が決めやすかったわ。とりあえずこんな感じね」

シャイン

【応急手当】:HP減少後に一度だけ1d6回復、10分間必要

【癒し】  :応急手当と回復呪文の回復量2倍(前提技能【応急手当】)

ローデリック

【武器熟練:グレートソード】:命中+1、ダメージ+1、イニシアチブペナルティ軽減

【盾熟練】:盾装備時AC+1

カイヴァン

【戦闘指揮】:パーティのイニシアチブ+1

【魔術師呪文威力強化】:1日に技能レベル回数呪文の威力を最大に出来る

ディーン

【鋭敏感覚】:シーフ技能判定+2

【武器熟練:ショートボウ】:命中+1、ダメージ+1

 龍治がキャラクターシートを見ながら手元に書き写していく。こういうデータはゲームマスターの手元にもあると便利らしい。

「大体は分かるけど、ローデリックはグレートソード手放す気無いんだね…」

「男のくせにロマンが分からないのね。屈強な戦士は両手武器! これはもはや真理と言っていいわね」

「そういうのは屈強な戦士になってからやるべきだと思うけど。…よし、記入終わりっと」

 では改めて開始である。首を洗って待ってなさい、ゴブリン達!

 

 山肌に石造りの入り口がぽっかりと開いている。元は何かを祭っていたのだろうか、入口の周囲は石畳に覆われ、支柱が何本か建っている。

 見張りのゴブリンが二匹いるが、夜行性で眠いのであろう、どちらも支柱にもたれかかって今にも寝てしまいそうだ。

『どうする、お嬢。今なら忍びこめそうだぜ?』

 偵察を終えて戻ってきたディーンが『私』に囁く。

『いえ、四人組で金属鎧を装備した者もいるのに、隠密など無理でしょう』

『だな。どうせ全部やっちまうんだ、派手に行こうぜ?』

 はやるローデリックをカイヴァンが抑える。

『待て待て、わざわざ騒ぎたてる必要もあるまい。何匹いるか分からんのだ、各個撃破できる時はするべきだろう』

『カイヴァンの意見に賛成です。気付かれないギリギリの位置まで近付いて、飛び道具で仕留めましょう』

 念の為、という気持ちからか。カイヴァンが進言してくる。

『どうしますマスター、より確実を期すなら【スリープ】で完全に寝かせてしまう手もありますが』

 『私』は軽く首を振って答える。

『いえ、先ほど貴方が言ったように敵の数が分かりません。二匹相手には使いたくないですね』

『あいつら寝ぼけてんだろ? 大丈夫だよ、一撃で仕留めて見せらぁ』

 ローデリックの言葉が、とても頼もしく感じる。

 

「で、実際どういう判定するの?」

 龍治がルールブックと首っ引きになりながら、状況を説明してくれる。

「えーと、ゴブリンは寝ぼけてるから10マス離れた所まで気付かれずに近づけるね。ローデリックとシャインのジャベリンだと中距離で修正なし。ディーンのショートボウだと近距離で+1。そしてカイヴァンのスリングも中間だから修正なし。誰がどれを狙う?」

 私はキャラクターシートを確認する。えっとシャインとローデリックが手投げ武器命中修正で、カイヴァンとディーンが飛び道具命中修正だから…ええぃ、ややこしい!

「こういう所がゲーム機と違って不便ね。主に雰囲気を楽しみたい女の子には不評だったんじゃないかしら?」

「あ~、そうかも。逆に数値を色々弄くりたがる理系の男子には受けたんじゃないかな」

 プレイヤー人口の確保に悩む当時のTRPG業界の苦労が、目に見えるようだ。

「まあ、誰がどっちを狙うかだけでいいよ。攻撃は同時に行われたとするし、当たったかどうかはこっちで確認するから」

「そう? じゃあ…ローデリックがゴブリンAを攻撃して、他の3人がBでいいかしら。手投げ武器ってダメージに【筋力】の修正が付くのよね?」

「うん。射撃武器だと付かないけどね」

 相手はゴブリン、ローデリックなら一撃だろう。ならもう一匹は手数で押し切る!

「えいっ!(コロコロ×4)」

 出目は…ローデリックが8、シャインが10、カイヴァンが16、ディーンが8だった。それぞれ修正を加えると12、11、15、13となる

「え~と…ゴブリンは寝ぼけてるから、目が見えない状態と同じ-4だとして…ACは、じゅう…っと、これは言っちゃいけないから…」

 龍治が頑張って計算してる。静かに応援しよう、頑張れー。

「うん、全部当たりだね。ダメージのサイコロを振っていいよ」

 よっし! そういえば初めて私が振るダメージだ、なんか嬉しいかも。

「いくわよ~(コロコロコロコロ)ローデリックのジャベリンが3で6点! シャインが4点でカイヴァンも4点で…ディーンが6+1の7点! すごい!」

「うわ~…Aはピッタリだけど、Bは完全にオーバーキルだね。…遺跡の前に漂う静寂を、四人が放つ飛び道具の音が切り裂く! ゴブリンAの着る粗末な服の上にローデリックの手槍が突き刺さり、一瞬びくりと震えるがそのまま崩れ落ちる。ゴブリンBには手槍と石と矢が流れるように吸い込まれて行き、それぞれ打撃を与える。中でも矢は眉間に直接突き刺さった様だ、どう考えても生きてはいないだろう」

 龍治の状況描写にも力が入り、それを聞く私の気分もご満悦だ。なにこれ、すっごく楽しいじゃない♪