魔術師カイヴァンの「力」

 忠実な仲間を得た『私』は、次に魔術師の方を向く。

『フッ、脳の足りない愚者は言いくるめたようだが、このカイヴァンにまで通じると思っては困るな』

 魔術師は軽く頭を振り、自信の有る、しかし悲しげな顔で語る。

『言っておくが、先ほどの手は私には通じん。なにせ私の生命力は2、君の一撃をくらえば確実に私は死ぬ。例えどんな神の加護があろうともな!』

 涙目で足が震えてるようにも見えるが、構わず『私』は話しかける。

『そのような事はしません。私は貴方達の力を借りに、そして同時に救いに来たのです。その私が、何故貴方達を傷つけるような事を致しましょうか』

 

「え?」

「うっさいわよ、龍治」

「アッハイ」

 

『…なに、私の力を? そして救うとは一体…』

『神は私に一つの未来を見せられました。それは、強力な魔術を操る魔術師が、決死の覚悟で挑んできたゴブリンと相討ちになるというものです』

『なっ、それが私の未来だというのか!?』

 

「あのシーンってそんなだったっけ?」

「まだ起こってない事になったんだから、多少捏造したって構わないでしょ」

 

『…確かに貴方の魔術は強大です。しかし悲しい事に、その力を得る為に払った代償は大きかった…貴方には自身の身を守る術が無いのです!』

 大きな衝撃を受けた魔術師カイヴァンが、その場に崩れ落ちる。

『くっ…私が今までの全てを捧げてきた魔術が、よもや弱点にもなるとは…一体どうすればいいのだ!』

 俯き嘆く魔術師に、『私』は手を差し伸べ道を示す。

『安心なさい。私と、私の戦士が貴方を守ります。いかなる刃も届かせはしません。…ですから、私の仲間になってくださいませんか?』

 己の道を閉ざされ、しかし新たな道を得た魔術師が『私』の手を握り返す。

『承知しました。我が力の全霊をもって貴女を支えましょう。貴女と神が、私を守護する限り!』

 

「叩き落としてから持ち上げる…真輝ちゃん詐欺師の素質ありそうだね」

「人聞きの悪い事言うんじゃない!」

 失礼な龍治に突っ込む。

「あたた…次は盗賊ディーンの説得かな?」

「あ、ちょっと待って? まだカイヴァンに用があるから」

 

『感謝します、魔術師カイヴァン。…では早速ですが、私の戦士の装備を見て、貴方はどう思います?』

 問われたカイヴァンは、ローデリックを見て答える。

『ふむ、大剣と皮鎧で飛び道具なしですか…ゴブリン退治には不釣り合いですね。いや、頭の足りない戦士殿にはお似合いですが』

『何だと貴様!』

 

「そんな風に言う事無いでしょ!?」

「真輝ちゃん? 今の真輝ちゃんのキャラクターはシャインで、ローデリックじゃないからね?」

 ぐっ…でもどちらも私が作ったキャラクターである。愛着があって当然ではないか。

 

『落ち着いてローデリック。…カイヴァン、理由を教えてはくれませんか?』

『はっ。まず武器ですが、小柄であるゴブリンを相手にするには攻撃力が過剰です。敵の拠点に乗り込む事も考えると、もう少し取り回しの良い武器を複数用意するべきかと』

『くっ…』

 ローデリックは大剣を見て悔しそうに呻く

『次に防具ですが、皮鎧と言うのは基本的に正面で戦う戦士向きではありません。いざという時に素早く動く必要のある狩人や、隠密を行う盗賊用と言えるでしょう。』

 それを聞くローデリックがさらに落ち込む。

 

 ついでに私も落ち込む。だって所持金決定のサイコロで7が出たんだもん、銀貨700枚でどうしろって言うのよ。

「でも大剣と革鎧しか持ってないって言うのもどうかと思うよ? ちょうど700枚だけど…あ、ここの食事代どうしてるんだろ?」

 大丈夫、それも含めて今話すのである。

 

『後は飛び道具ですね。長弓や短弓、石弓もいいですが、私としては手斧や手槍などの手投げ武器をお勧めします。力が無ければ貴女の様な投石紐でいいでしょうけど』

『それは何故ですか? きちんとした弓の方が効果が高いのでは?』

 首を傾げる『私』に、魔術師は丁寧に説明する。

『はい。野外で使うのならば長弓が一番です。次点で石弓、飛距離を気にしないのであれば短弓でしょう。ですが今回は太陽の苦手なゴブリン退治、野外での見晴らしの良い射撃戦などまず無いと考えます』

 ふむふむと聞く『私』に話を続ける。

『そうすると使うのは敵拠点の中、遭遇してから接敵するまでの僅かな間に撃つことになりますが、その場合せいぜい1回撃てるかどうかと言う所です。敵の方が早く気付けば、その間も無いかも知れません』

 なるほど、確かに出会い頭に接近戦と言う事も考えられる。

『そこで慌てて武器を持ち替えるより、最初からどちらにも使える手投げ武器の方が便利だと考えます。片手で扱う物ですから、盾も使えますしね』

 納得のいく説明に『私』は魔術師を称賛する。

『流石ですね、カイヴァン。目から鱗が落ちた気分です』

『恐縮です』

 説明を聞いてたローデリックが、申し訳なさそうに『私』に口を開く。

『我が主よ、残念ながら私にはそれらを準備する金が…』

『問題ありません』

『え?』

 言葉を遮り『私』は改めて魔術師に語りかける。

『魔術師カイヴァン、そこで貴方の持つもう一つの『力』を貸して頂きたいのです』

 カイヴァンが怪訝な顔で答える。

『…私の持つ『力』? 失礼ですが、魔術以外に思い当たる所は…』

『お金、貸してください♪』

『………は?』

 何を言われたのか、理解が追いつかない魔術師に『私』は続ける。

『神託がありました。貴方【所持金決定】のサイコロで17を出したから、まだ銀貨1500枚くらい残ってますよね? それを貸して頂きたいのです』

『な? え、で、でもこれは次の新たな魔術を学ぶ為の貯金で…』

 往生際が悪い。

『魔術を学ぶ為に大金が必要なのは知っています。ですが、これも貴方を襲う運命を回避するため、そして私と貴方を守る戦士に及ぶ危険を、少しでも減らす為なのです!』

『あ、う、で…ですが』

 なおも抗うカイヴァンに『私』はニッコリと笑って言う。

『全霊で支える、って言いましたよね?』

 がくりと頭を垂れるカイヴァン。分かってくれたらしい。そして、戦士が魔術師に肩を叩いて声を掛ける。

『悪いな。あとここの勘定も頼むわ』

『文無しかよ!?』

 

「ふぅ、これで二人目ね」

「…お金って大切だね」