閑話と仲間?

 人間である以上、間違いは誰にでもある。いや、間違いを自覚、克服し、より良い状態になるというのが人間の本懐とも言える。そう、人はそうやって経験を魂に刻み込み、進化していく存在なのであろう。ましてや、初めてやるゲームでミスをしないなんてあり得るだろうか? 私はそうは思わない。

「真輝ちゃん!? ギブ、ギブアップだってば!?」

 かと言って、全く罰が無いというのも人としての成長を阻害してはしまわないだろうか? やはり罪に合った罰が必要だと私は考える。だから、プレイヤーが一人なのに四人用のシナリオを準備した龍治が、こうして私にスリーパーホールドを掛けられてるのは至極当然と言えよう。

「苦しいし!? あと骨が当たって痛いんだよう!?」

 ブチッ

「あんたもそう言うの!? 貧乳には価値がないって、希少価値なんて言い訳だって思ってんの!?」

 激昂した私は、より一層の力を腕に込める。

「確かに、この間鏡子のをちょっと触らせてもらって『なにこれ、何が詰まってるの? これを男共は夢とかロマンとか言ってるの? あ、でもずっと触っていたいかも』なんて思っちゃったけど、大きいのって肩が凝るって言うし、下着だって可愛いのはすぐ売り切れちゃうって聞くし…でもあの時の鏡子の勝者の余裕と憐憫が入り混じった表情は……あーっもーっ龍治のバカーッ!」

「僕なにも言ってないよ!?」

「まったく。仲が良いのはいいけど、もっと静かに遊びなさい」

 騒いでたらお母さんに怒られた。けどこっちにも言い分がある。

「龍治が『B以下は、女として終わってるどころか始まってもいない』って言うから…」

「…龍くん?」

「言ってないです。と言うか、ここまで酷い風評被害も珍しいと思います」

 龍治が心底心外だという表情で反論する。

「まあ、龍くんがそんなこと言う訳ないわね」

「…でもきっとそう思ってるもん」

「思ってないよ!? あと言論の自由はともかく、せめて思想の自由は保障してほしいんだけど…」

 生意気な事を言う、龍治のくせに。

「あら、ドラゴン・ファンタジーやってたの。懐かしいわね」

「え? お父さんのだと思ったんだけど、お母さんもやってたの?」

 意外だ。てっきりお母さんはこういうのに無縁だと思ってたから。

「これでも昔は結構やりこんだものよ? お母さんはエルフの魔術師で、お父さんは人間の聖騎士だったわね。『僕に、君の長い寿命の一部をくれないか?』ってプロポーズされたわ♪」

「…それってゲームの? それとも現実の?」

「ゲームだけど、その後すぐ付き合いだしたから、結果的には両方かもね」

 これはナンパツールだったのか…って複数人でやるゲームよねこれ? 他の人はどう思ったんだろ?

「ともかく、あまり騒がない事。ご近所さんの迷惑になりますからね」

「はーい」

 さて、ミスを正していこう。考えられる手段は「人数が足りないんだから人数を増やす」か「シナリオを四人用から一人用に直す」だろうか。

「鏡子でも呼ぼうかしら…でもこの流れで鏡子を呼んだら負けな気がするし」

「く、首回りがなんか変なんだけど…」

 龍治が首をコキコキさせながら呟く。

「悪かったわよ…それより、こういう時ってどうするの? 何かルールブックに書いてないの?」

 ストレッチをしたら治ったのか、龍治がルールブックを調べ始める。

「え~と、書いてあるね。『①友達を呼ぶ。居ない場合はゲームをしてる場合じゃないぞ?』」

「余計なお世話もここまで来ると清々しいわね…他には?」

 冗談なのか本気なのか分からない。冗談だったら笑えないし、本気だったら張り倒したくなる。

「次は…『②シナリオを作りなおす。GMの苦労をあざ笑う鬼畜行為、じゃあお前がGMやれと言ってやれ!』」

「龍治…それあんたの意見じゃないでしょうね?」

 龍治が首をぶんぶんと振る。

「そんなことないよ?…思っても言わないし。あ、まだある『③ノン・プレイヤーキャラクター(NPC)を連れていく。あまりお勧めしない、一人だと空しさが半端無いからね!』」

 …最初と最後に違和感を感じたが、③が現実的だろうか。

「その中だと③かしら。龍治、準備できる?」

「え、今からNPC用意するの?…あ! そうか、これが使えるか。…うん大丈夫。すぐに出来るよ」

 自分でも無理難題と思ったが、龍治は出来るという。うん、ちょっと見なおしたかも。

「へぇ…凄いじゃない。じゃあ、さっそく再開しましょうか!」

 ゴブリン一匹一匹は大したことがなくても、数も分からず相手の拠点に乗り込むのだ。とても一人じゃ出来るわけがない。『私』は仲間を募る為に近くの酒場に向かう事にした。

 

「…ねぇ龍治、なんで酒場なの? こういう時って職安とかじゃないの?」

「う~ん。普通ならそうなんだろうけど、いわゆるヤ○ザな職業だからね、冒険者って言うのは」

「現実に冒険者って居ないから、ここら辺想像しにくいわね」

 

 二階建ての大き目の建物。その右寄りについてるドアを開けて中に入る。入って右にはカウンター席があり、バーテンダーがグラスを磨いている。正面のやや左の奥には二階へと続く階段が見え、左に広く取られているスペースには、四人掛けのテーブルの席が均等に並べられている。

 

「昼間だというのに酒の匂いが漂う中、テーブル席に目を向けると三人の男が座っている。身なりを見ると、それぞれ腕に覚えがあるようだ。テーブルの脇には武器が立てかけられていて、なにやら話している。どうやらゴブリン退治の事についてらしい」

 龍治の状況描写を聞き、頭にイメージする。なるほど、どうやらこの三人がシャインの仲間になる予定らしい。

「まずは話を聞いてみようかしら。なんて言ってるの?」

 内心ワクワクしながら龍治に聞く。

「うん。こんな会話だね」

 

『ゴブリンなんぞ、この勇敢なるローデリックの相手にもならん。金貨200枚は俺のものだ』

『フッ…これだから脳まで筋肉か金属で埋まってる輩は。このカイヴァンの魔法の前にはどちらも赤子よ』

『精々がんばりな、ご両人。その間に俺が全ての宝を奪ってやるさ、何も無くなってても恨むなよ?』

 

 会話を全て聞く前に、私は再びテーブルに突っ伏した。

「真輝ちゃん、どうしたの?」

「わ…」

「わ?」

「私のキャラクター達じゃないの!!」

 結構大きな声だったらしく、またお母さんに怒られた。