『私』の名前

 神官。それは神の奇跡を地上に顕現させる神の使徒。その奇跡とは、ある時は傷を癒し、またある時は邪悪な者を寄せ付けない結界を張り、最たるものは死者を冥府から呼び戻す事すら出来るという。

「真輝ちゃーん。そろそろ決まらない?」

「も、もうちょっと待って?」

 私は今、神官の呪文を選んでいるところだ。1レベルの神官である私は、1レベルの神官呪文を1日に1回+信仰心ボーナスでさらに1回、合計2回使う事が出来る。1レベル呪文は6種類あり、そのうち2種類を最初に神様から授かってるという設定だ。

「【ヒーリングI】は神官として外せないでしょ? 【ライト】も便利だろうし、長旅でも新鮮な食事の出来る【ピュリフィケーション】も捨てがたいのよね。敵にも神官が居たとしたら【リムーブ・フィアー】も選択肢としてありだろうし、アンデッドを完全に寄せ付けない【ホーリー・プロテクション】は神官として必須な気もするのよ。街中での冒険だったら【ディテクト・イービル】も欲しいところだし…」

「…それ、もう全部だよね?」

 龍治があきれた声で言う。

「ぐぬぬ…しょうがないじゃない! 全部使えそうなのばかりなんだもの…」

 正直、どれも必須に思える。

「レベルが上がったら、また貰えるから。今は適当に決めたら?」

「むむむ…よし!【ヒーリングI】と【ライト】、君たちに決めた!」

 色々と後ろ髪をひかれつつ、私は決断した。

「へぇ…前線に出るなら【ホーリー・プロテクション】かと思ったけど、【ライト】にしたんだ」

 龍治が意外そうな表情で私を見る。だがしかし、この選択にはちゃんと考えがある。

「やることはゴブリン退治でしょ? 近場の遺跡だから【ピュリフィケーション】は要らないし、全員邪悪だから【ディテクト・イービル】も意味が無いわよね。【リムーブ・フィアー】は状況を選ぶし【ホーリー・プロテクション】はACも上がるけどチェインメイルを着ている私は元々硬い。ならいきなり光源が無くなった時に、パッと明るく出来る【ライト】が良いかなって、ほらゴブリンって暗闇でもモノが見えるって聞いたし」

 私が得意気に理由を語ると、龍治がさらにあきれた表情になった。

「メッタメタな理由だね…まあゴブリン退治はよくある事らしいから、そういうのもありかな?」

 いいの。何せこっちはレベル1なんだから、何が何でも生き延びる為に最善を尽くしただけである。

「…ん? とすると…ああ、こうした方がいいかな?」

 龍治がマスタースクリーンの裏で何か記入する。

「龍治、なに書いてるの?」

「うん、ちょっとね。…それは置いといて、呪文が決まったから次は言語かな。知力が12で+1修正があるから、人間が使う【共通語】の他にもう一つ喋れるけど、なにがいい?」

 そう言って一覧表を見せてくれる。どれどれ…エルフ語、ドワーフ語、ゴブリン語…その中に一つ、強烈に私の好奇心を刺激する言語があった。

「これ! ドラゴン語! 私ドラゴン語にする!」

「…へ? ああ、確かに載ってるけど、こんなの誰に教わるんだろ…?」

 本来は、日常的に交流のある種族(敵味方は問わず)の言語しか学べないらしい。けど一度好奇心に火がついた私に、そんなことは関係ない。

「きっと色々あったのよ! 育ての親が実はドラゴンだったとか、子供の頃にドラゴンと一緒に育てられたとか!」

「…よくそういう設定がポンポン出てくるね。まあいいか、じゃあ細かい設定は後にして、ドラゴン語を話せるという事で」

 ふふん♪ ドラゴンと会話の出来る清楚な神官、絵になるじゃない? 夢が広がりんぐである。

 キャラクターシートに間違いがないか、龍治が確かめる。

「…うん、合ってる。最後に名前を決めて終わりだね」

「もう考えてあるわ! 真輝の「輝」から取ってシャイン、神官戦士シャインの誕生よ!」

 こうして『私』シャインがこの世に生を受けた。