馬ってどこに居る?

「わ~っ、久しぶりっ!」

 思わず口から出てしまう。というかもう、久しぶりを通り越して懐かしい感じだ。

「余り近いと、返ってなかなか来なくなるよね」

 確かに龍治の言う通り。何時でも行けると思うと、逆に足は遠のく様だ。

「いっつも何かしらイベントはやってるらしいんだけどね~、でも「今行かなくてもいっか」って思っちゃうかも」

 鏡子も同様らしい。ちょっともったいなかったかしら?

 私達が今居るのは隣町(お婆ちゃんが住んでるのとはまた別)にある遊園地と動物園を兼ね備えたテーマパーク。

 お父さんたちが子供の頃に出来たらしくて、私も子供の頃に何回か来ている。けれどもはや記憶の彼方だ。

 入口で一日フリーパス券を買い、中に入って最初に出たのが冒頭の私の言葉というわけ。

 ゴールデンウィークの初日、昼前…というより朝に近い時間の、晴れ渡った穏やかな天気。これはもう決まったわね。

「さあ、今日は一日遊び尽くすわよ!」

「お~っ!♪」

「僕たち、馬を見に来たんだけど…」

 龍治、ノリが悪いわよ。

 翌日、ゲーム前に宿題をこなす私のシャープペンが止まり、溜息と共に深々と声が漏れる。

「馬って素敵よね…♪」

「真輝ちゃんが見たことない顔してる…」

 失礼ね、乙女の顔と言いなさい。

「だって凄いのよ!? 可愛いのよ!? 「ルル~っ」って名前を呼ぶと「なあに?」って感じでこっち向くのよ!?」

 あれはもはや神が作り出したものではなかろうか?(世の中のものは大体そう)

「乗って一周した時だって、私が普段と視点が全然違くてちょっと怖いな~って思ってたら「大丈夫?」って感じにこっち向いて止まるのよ!?」

「あれは飼育員の人が止めてくれたんじゃ…」

 うっさい、私にとってはルルが止まってくれたの!

 諦めたのか、龍治は横に視線を向ける。するとそこには…

「…アルパカって奇跡の生き物だよね♪」

 頬杖を付き、見たことない顔で溜息をつく鏡子が居たのであった。

「じゃあ始めようか。結局馬はどうし…」

「ルルが良い」「コクトー(アルパカの名前)が良い」

 龍治の言葉に被せ気味に反応する私達。

「二人とも戻ってきてよぅ…」

 はっ? GMを困らせちゃいけないわね。

 

 ヒヒーンという馬の嘶きが時折聞こえる。普段こっちには余り来ないから新鮮だ。

 厩舎の中に入ると、独特の匂いと生き物の熱 ~オーラと言ってもいいだろう~ が満ちている。

『どの子も元気いいね~♪』

 アリシアが嬉しそうに言う。異論はないが、エルフにはまた違って見えるんだろうか。

 ここは訓練場に併設されている、領主様管轄の厩舎の一つ。

 この街では、馬に関する取引は領主様が司っている。

 馬は高価だし、調教次第で立派な戦力にもなるのだから、まあ当然よね。

 特に重装備の騎兵から繰り出される乗馬突撃ランスチャージは圧巻の一言だ。

 偶に催されるお祭り(名目は色々)の時に、馬上槍試合トーナメントが開かれることがあり『私』も観たことはあるが、感想を言うとすると…『絶対に受けたくない』の一言である。

 

「なにこれ…ランス自体のダメージが1d10で、それに【筋力】修正がついて更に【突撃】で2倍!? 今のシャインでも当たったらほぼ即死じゃない!」

「というか、これで死んだら体が凄い事になってそうだよね…【死者蘇生】も無理なんじゃないかな? 上半身がバラバラになってたり…」

「龍っちやめて―!? 想像したくない――!」

 

 もちろん試合用のは先端が丸められた木製のものだから、死者が出るのは稀だ(出ないとは言ってない)。

 だからと言ってやられたくはない。だってそうでしょう? 長さ3m前後ある太い棒が、馬の全力疾走で突っ込んでくるのよ!? どうしろってのよ!

 …話が逸れたわね。ともあれ、野生の馬を自分で手に入れて調教するとかでなければ、この街で馬を手に入れるには、ここで購入するのが一番ってこと。

 さてさて『私』のルルは居るかしら♪(ちょっと混ざり気味)

 結論から言うと、居なかった。

 馬達に問題があったわけではない。そもそも『私』の身長に合う馬が居なかったのだ。

 

「くっ…昨日のアトラクションは全部乗れたのに!」

「あれは最高でも130㎝あればよかったし…ちなみに日本の馬はほとんどがポニーに分類されるらしいよ?」

 ポニーとは馬の小柄な品種の総称。肩までの高さが147㎝以下で、期せずして私の身長と同じだ。とても親近感が…ってそうじゃない!

「ってことはマキだけポニーにするの? それだと皆と速さとか違っちゃうんじゃない?」

 それは困る。強敵から逃げなくちゃいけない時に私だけ追いつかれて…ああ? 考えたくない!

 

『今ポニーの空きはありませんねえ。元々数が少ない上に、結構需要があるんですよ。なにせドワーフやハーフリングの方達は、ポニーに乗るしかないんで』

 と厩舎の係員の弁。確かにその二つの種族は平均身長が私より低い。そもそも選択の余地がないんだろう。

『どうする? しばらくあたしと一緒に二人乗りする? あ、でもその場合荷物はカイ君やディー君に持ってもらわなくちゃだね』

 背後から、そしていつもより高い位置からアリシアの声が聞こえる。ササっと自分の馬を決め、説明を聞き、サラッと場内を一周乗り回してのセリフである。

 …ちょっとイラっとしたのは秘密だ。

『冒険者なら野生の馬を捕まえるってのもありですよ? その場合、複数手に入ったならこちらで引き取ります。ああ、初期の調教もサービスしますよ』

 なるほど、そういう手もあるか。でも野生の馬をどうやって捕まえるの? スピードの差を考えたら、それこそ馬が必要じゃない?

 そもそもどうやって馬の群れを見つければ…空の上からでも見渡さないと…

『あ?』

 気づいたと同時に『私』は手をポンと叩いていた。

『馬? ああ、あの四本足の連中か。南に少し行った所の山間やまあいに居たぞ?』

 聞いてみるものだ。

 ご想像の通り、ここはハーピーの館。南の山々から退避してきたこの一族なら、ひょっとしたらと思ったのだ。

 

「ふ~ん、こういう前のお話で出来た縁で次のお話に続くって、なんかいいね♪」

 鏡子の言う通り。自分が一つの物語の中に居るっていう感じがとてもする。

 

『だが、ここより南には人の集落もない。案内を付けよう。…だれかある!』

『はっ』

 といってクィーンの掛け声に応じて出てくる別のハーピー…あれ? そういえば…

 

「ねえ、ハーピーって名前の文化はないの?」

 と尋ねると、龍治は少し苦い顔になり…

「ん~~多分無いと思うし、付けるとしても特に気に入ったキャラだけにして欲しいかな。管理が大変だし…」

 あらら、確かにNPC全員に名前付けて、それを管理するとしたらもの凄い手間ね。…現実の神様も大変なのかしら?

 翌日、装備を整え改めて南に出発する。人里がないなら食料は大目に必要よね?

 結局『私』以外の四人は乗用馬を購入した。屋外での戦闘をメインに考えるなら戦馬だろうけど、費用はかさむし乗用馬に比べて速度は落ちる。荷運び用の駄馬ドラフトホースというのもあるが、今の所そこまでの長旅の予定も荷物もないし、必要ないだろう。

 案内役のハーピーを先導に、一日ほど進むとそれらしき山々が近づいて見えてきた。

『お嬢、馬にして良かったっスね。歩きじゃまだ半分も来れてなかったでしょうし、ハーピーの姉ちゃんにもとても付いて行けなかったでしょうよ』

 昼の休憩中にディーンが声をかけてきた。全くその通りだ。馬の世話や装備の手入れ等を差し引いても、全然速い。疲労も歩きとは比べ物にならないほど軽い。

『そうですね。後は『私』に合う馬が見つかればいいのですが…それまでこの子、コクトーには世話を掛けてしまいますね』

 言いつつコクトーの首を撫でる。すると「ブルルル」とコクトーが返事(?)を返してきた。何て…

『気にすんな、ってさ♪』

 分かっているのかいないのか、アリシアが適当なことを言ってくる。

『あいつらが居たのはあの辺りだ。今も居るかは分からんが、居ると良いな』

 とハーピーが山々の一点を指さす。よし、もう一息ね!

 …ここで『私』は少し疑問に思うべきだったかもしれない。

 何で馬を捕まえに行くのに、ハーピーが「山間の中腹部辺り」を指さしていたのかを…