銅貨はどうかな?

 気を取り直して、考えるべきことを考えよう。

 指輪の詳細? この世界で【ロア】の呪文を使える魔術師を探すなんて、それだけで大きなクエストになってしまう(なってしまった)今考える事ではないだろう。

 ゴブリン退治? ふむ。考えるべき事ではあるけど、少し後回しね。これはそう、ゴブリン退治を心置きなく行う為に必要なこと、言ってしまえば「後顧の憂いを絶つ」ためのものね。

 すなわち…

 

「この銀貨と銅貨しめて3000枚、これをどうするかってことよ!」

「…ゴブリン退治が終わってから回収でいいんじゃない?」

 呆れた表情で言う龍治を、きっと見つめて問い詰める。

「大丈夫? 本当に? ゴブリンを退治して戻ってきたら「箱の中には何もない、どうやら何者かが持ち去ったようだ」とか言わない?」

 龍治は、しばし視線を上に上げ、ひとつ頷いた後私に言う。

「あるかも知れないね」

「否定しなさいよ! くっ…きっとシャイン達勇者一行が街を出発するときに、物影から「くっくっく、奴らの後をつけていけば、お宝ががっぽり手に入るぜ」と言いながら隠れていた盗賊が居たに違いないわ。中世って恐ろしいわね」

「パーティー結成前のディーンみたいだね」

 そういえば、そんなことを言ってた気がする。いや、あの時言ってたのは私じゃなく龍治だが。まあそれはいい。

「と言う訳で、ゴブリン退治に支障が出ない程度にお宝を回収するわ。龍治、改めて重量と移動力のルールをお願い」

「了解。まずは移動力の確認をするから、キャラクターシートを出して?」

 言われた通りにキャラクターシートをテーブルの上に出す。移動力の欄にはシャインとローデリックが6、カイヴァンが7、ディーンは8と書いてある。

「移動力は主に装備してる鎧によって決まるんだ。非金属鎧は8で金属鎧は6。武器や道具は常識的な量ならカウントしないで、実際に影響するのは持ってる宝の量だけだね」

 うむうむ。シャインとローデリックはチェインメイルを着ているから6で、ディーンはレザーアーマーだから8、と

「カイヴァンが7なのは、装備を買った余りの銀貨が結構多いからよね?」

「そうそう。宝を400枚持つ毎に移動力が1下がって、最低は3。それ以上持つと動けなくなるね」

「2や1にはならないの?」

 龍治が苦い顔をして答える。

「やってもいいけど、人間型の生物が大体6か8で、モンスターによっては10とか12なんだけど…」

 ああ、そんな中で1や2あっても無意味ね。なるほど、ゲームとして成り立つ最低値は3と。

「じゃあ、移動力を下げないように宝を得るには、まず今いくら持ってるかを知る必要があるってことね?」

 え~と、全員の所持金は…

・シャイン   銀貨 58枚 銅貨5枚 合計重量63枚

・ローデリック 0枚(カイヴァンに借金 銀貨876枚 銅貨2枚)

・カイヴァン  銀貨456枚 銅貨1枚 合計重量457枚

・ディーン   銀貨239枚 銅貨8枚 合計重量246枚

 あれ? そういえば…

「ねえ龍治、銀貨と銅貨って同じ重さなの?」

「うん。貨幣は全部同じ重さの45グラムで、白金貨、金貨、銀貨、銅貨の4種類。一般的に使われてるのは銀貨と銅貨で、白金貨と金貨は国家予算や大きな取引で使われるって書いてあるね」

「45グラム? なんか中途半端ね」

「元々外国のゲームだから、度量衡の単位が違うんだよ。長さはフィートで、重さはポンド。1ポンド約450グラムだから、貨幣1枚は1/10ポンドだね。ダンジョンも本当はフィートで表すんだけど、分かりづらいからなぁ…」

 なるほど。こういう所にも輸入物と言う影響があるのね、奥が深いわ。

「じゃあ銀貨を優先して袋に詰めるとして、400枚まではOKだから…」

 電卓をポチポチ、シャインは337枚でローデリックは400枚、カイヴァンは800枚までだから343枚でディーンは154枚、と。

「これを全部足すと…1234枚ね。とすると銀貨が全部で銅貨は234枚まで入れられるわね、大漁大漁♪」

 思わずにんまり。残った銅貨は…まあしょうがないか。

「残りの銅貨は1800枚くらいよね? 1枚10円って話だから…18000円かぁ。う~ん、ちょっと勿体ないけど命の方が大切よね」

 諦めつつ龍治を見ると、なにやら難しい顔をしてる。あれ? 何か間違えたかしら。

「どうしたの龍治? 計算ミスでもあった?」

「いや、そうじゃなくて…ねえ真輝ちゃん、この「銅貨1枚=10円」って今の10円でいいのかな?」

「へ? 今も何も10円は10円でしょ? 何か問題あるの?」

 10円は昔から10円よね?

「ほら、このゲーム自体が何十年も前の物だからさ、同じ10円でも買えた物は違うんじゃないかなって」

 むむむ、そう言われると気になるわね。昔の物価かぁ…

「昔の物価?」

「うん。ゲームやってて気になったんだけど、今と昔じゃ違ったんじゃないかって龍治が言うから」

 とりあえずお母さんに聞いてみる。家事が終わって買い物に行くところだった様だから、ある意味ちょうど良かったかも。

「うーん…私達が子供だった頃とは大差ない気がするわねぇ、卵は1パック100円で買いだったし音楽CDはずっと3000円くらいだと思うし…」

 ふむ、そう聞くと特に変化は無い様だ。考え過ぎかな?

「ゲームってドラゴン・ファンタジーの事よね? 私達が生まれる前だから…そうだ、お義母さんに聞いてみたら?」

「お義母さんって隣町のおばあちゃん? 今居るかな?」

 おばあちゃんは、今はもう亡くなったひいお爺ちゃんの家に住んでるんだけど、携帯を持ってないから、家に居ないと連絡がつかない。

「分からないけど、真輝の声を聞けば喜ぶと思うわ。良い機会だから電話してみなさい、あと留守番よろしくね」

「はーい」

 おばあちゃんか…前会ったのは新年だったから、ちょっと久しぶりかな。